2020.08.02
時計じかけの女たち Vol.1いつぶりだろう、自分で自分にワクワクしたのは。二カ月後、私はフリーランスになっていた。
あの時の陽子さんの言葉を忘れることが出来ず、数カ月前に30歳をむかえた自分に何かプレゼントを買おうと思い立ち、買い物に行ったのだ。
いつもなら絶対に覗かない百貨店の時計売り場に足を踏み入れると、一番最初に目に入ったのが、シャネルのJ12だった。派手過ぎず、それでいて凛として輝いている。
そのイメージはまるで、何かをひたむきに頑張る、精神的にも経済的にも自立したオトナの女性そのものだった。
一瞬で決めた。これを持って帰ろうと。
カジュアルにもフォーマルにも使えて、大きさも複数種類がある中から、38mmのホワイトにした。
金額が大きなものを衝動買いしてしまった。
入社以来コツコツ貯めてきた貯金の一部を使い、私にとっては初めての、即決の大きなお買い物。そわそわした気持ちだったが、それ以上に感じたのは、自分へのワクワク感だ。
こんなことはしたことがなかったし、するという選択肢を知らなかった。それにやろうという気持ちさえあれば、何でも出来ると実感できたのだ。
―頑張れるかもしれない。せっかくなら、転職じゃなくて独立しよう。
そう決めてからの行動は早かった。
次の日に上司に相談し、幾度となく退職ミーティングをした。新卒以来会社に身を捧げてきたおかげか、いくつもの良い条件を提案してもらえてありがたかった。
だが丁重にお断りすると「ま、せいぜい頑張って」という冷たい言葉。その5日後に最終出社日が決まった。
―代わりはいるのは知っていたけれど、あっけないものだな。
それからあっというまに有給消化に入った。
そしてなんと最初の仕事をくれたのは、辛辣な言葉を投げかけたあの陽子さんだった。
電話で報告をすると、彼女の声は弾んでいた。
「まさかあの一言を実践して決めたなんて。昔から一生懸命だったけど、びっくりしたよ。新しい自分の一面を知ったのね。決断したなら応援する以外ないよ。新しい案件手伝って!」
本当にありがたい存在だ。
明日からその案件に着手する。昔からセルフネイル主義なので、気合を入れるため新しいネイルポリッシュを買いに行ったら、お会計の女の子にこう言われた。
「素敵な時計ですね。私も欲しいです」
彼女からしたら、簡単にこの時計を買えるような成功した女に見えたかもしれない。
ありがとうございますと、かっこつけて返事をしたが、実際はまだ会社を退職したばかりの駆け出しのフリーランスだ。
きっとしばらくは、厳しい現実に直面することになるし、好きなお買い物だって当分はお預け。
けれど私は知っている。いつか必ず、自分が話題になる案件に関わって活躍できるという未来を。
これから何度傷ついても、あの日のワクワクを胸に生きていく。そしてそんな時間を、この時計がずっと刻み続けていくのだ。
▶他にも:“女だから”というだけで、男たちの会に呼ばれて…。25歳の女がそこで知った衝撃的なコト
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見た目ばかり気にするギラギラ女を変えた、男との出会い
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