あなたに会える、その日まで Vol.6

「里帰り、しなくてもいい?」その一言が言えない妊婦の悩み

新しい命をお腹に宿し、赤ちゃんとともに過ごす十月十日。

花冠をつけて、マリア様のようにやわらかく微笑むマタニティーフォトの裏側には、さまざまな物語がある。

たくさんの笑顔と涙に彩られるマタニティーライフ。

あなたに会える、その日まで。

◆これまでのあらすじ

市川優は、独立したばかりのテキスタイルデザイナー。結婚5年目の33歳だ。

不妊治療の末、念願の赤ちゃんを授かるも、切迫流産での入院や、母親の孫フィーバー、前途多難だ。

里帰り出産について考え始めるとどうしても気が重くなり…


「市川さん、赤ちゃんの性別ですが…」

「はい!!」

玉木医師はエコー画面をじっと見つめると、神妙な面持ちで診察台に横たわる優に目を向けた。

優はドキドキしながら次の言葉を待つ。

「……残念。まだ見えませんねー」

「もう、先生、焦らしすぎです」

女性医師の玉木絵里子は優の苦言を受けて笑った。

「ちょっと溜めて言った方がドラマチックでしょ。私としては、なんとなーく予想はしてるけど、確信じゃないから言わないでおくわ。まだ16週だものね。焦らない焦らない。楽しみは先にとっておきましょう。あとは順調よ」

いたずらっぽく笑った玉木医師は、「他に何か心配なことや、困ってることはありますか?」と言葉を続ける。

「そうですね…。つわりが治まってから何を食べてもおいしくて、体重増加が心配です。実はもう3kg増えてるので…」

「最近は、体重は7kg増までで抑えるようにって指導するところもあるけど、市川さんもともとがむしろ細すぎだから、そこまで神経質にならなくても良いと思う。…っていうのもね。私、自分が妊娠したとき15kg増えちゃった過去があるから、どうも患者さんに強く言いづらくて」

そう言うと玉木医師は、またしても大きな口を開けて笑う。

おそらく、40代の中頃だろうか。大らかでさっぱりしたこの医師のことを、優はとても信頼し、好ましく思っている。

ただでさえ不安な妊娠中だ。あれはダメ、これはダメという制限が多い中で「神経質になりすぎないように」と言ってくれる存在は、それだけでありがたかった。

「あ。でも、市川さん、里帰りだっけ?産む病院の先生の方針に合わせないとね」

ー里帰り。

その言葉を受けた優は、一瞬ぎゅっと胸が押しつぶされるような感覚に陥った。

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