高嶺のカナ Vol.2

「ああいう女性は、男たちが放っておかない」。交際1日で、男が同僚の女から言われたこと

まさかの「ご報告」


「石崎。そろそろ出られる?」

翌日。経理部の上司・指田藍子が、健人のデスクの横で不満そうな声を上げた。

「すみません、指田さん。もうすぐ終わります」

健人のキーボードを叩く音のスピードが、にわかに上がる。その時、横を通りかかった一人の女性が、顔を輝かせて藍子のもとに駆け寄ってきた。

「わあ、藍子さん!」

「おー、久しぶり。どう、新しい配属先は?」

健人の隣で暇を持て余している時でさえ、藍子の周りには人が絶えない。今もこうして、女性社員が楽しそうに彼女とお喋りに興じている。

指田藍子は、その面倒見の良い性格から、主に若い社員からの人気が高い。

彼女へのOG訪問がきっかけでこの会社を志望した社員も多く、この女性社員もきっとどこかのタイミングで藍子が世話を焼いたのだろう。

会話がひと段落したのか、藍子が立ち上がって健人に声をかけた。

「エレベーター混むから、先降りてるよ」

「終わりました!行きます!!」

メールを送信した健人は、スタスタと歩く彼女の後を急いで追った。エレベーターを待つ間、藍子がニヤッと笑って聞いてくる。

「何か良いことあったでしょ?」

「え? あぁ…」

不意を突かれ、ビクッとする。

昨日のことをどこから説明するべきか迷い、一瞬答えに窮した。しかし、口元が緩んでいるのが自分でもわかる。

「まぁ詳しくは、お店の中で聞かせてよ」

今日の目的地は、同じビルの地下にあるレストランだったので、まずは店に入ることにした。


「…えっ!? まずはデートに誘うって話じゃなかったっけ」

藍子は目を丸くして、店内に響くほどの大きな声を出した。

彼女はおどけて口に手を当てるが、時すでに遅く、周囲の何人かは顔をしかめてこちらに視線を向けている。

「そのはずだったんですけど、本人を目の前にしたら、つい口が滑ったというか。気づいたら告白していて…」

健人は声のボリュームを抑えて、昨晩の事情を説明した。

「それで? オーケーもらったってこと?」

しかし、健人の気遣いはどこ吹く風。藍子は普段の調子で喋り続ける。

この豪胆さというか、図太さみたいなものはどこから来るのだろう。健人はいつも疑問に思っている。

「まぁ、そうですね…」

「へー。よかったじゃない」

いまだに健人も、実感が湧かない。

今この瞬間に、花奈の方から“やっぱり昨日のことはなかったことに”なんて連絡が来ても、おかしくないと思っているほどだ。

しかし、今のところそれはない。つまりは、健人と花奈は“付き合っている”ということで間違いないのだろう。

自然とふたたび口元がほころぶ。それを藍子は、見逃さなかった。

「でも安心できないわよ。神谷花奈さんみたいな子、他の男が放っておくわけないでしょ。油断してると、奪われるわよ」

喜んだのも束の間、藍子の厳しい忠告に少しだけ落ち込んだ。

−そうか、僕はまだスタート地点に立っただけなんだ。

健人は、ようやく現実を認識したのだった。

この記事へのコメント

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No Name
健人、いいね。こういう精神状態だといろんなことがうまくいきやすくなるよ😄

そして花奈がOKした理由気になる。また来週も楽しみ☺️✨
2020/05/30 05:4999+返信1件
No Name
恋をパワーに変えるけんちゃん、素敵です💕
2020/05/30 05:4155
田舎者
😄さわやかなお話で良いですね。
2020/05/30 06:3945返信1件
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