「勇仁(ゆうじん)って言います。最近、本当に仕事ばっかりで…。飲み会自体久々なんで、お手柔らかに…」
どこぞの韓流スターを彷彿させるその笑顔に見覚えがあった。それにユウジンなんて名前は珍しいからすぐに思い出した。
「勇仁さん、私のこと覚えてます?2年前、ゲームの新商品リリースのイベントでご一緒した…」
「あー、やっぱり?もしかしたらって思ってたんだよ」
年齢は私と2コしか変わらないのに、頭がキレて、仕事のセンスも抜群だった勇仁は当時から目立つ存在だった。『大事なことは、早い段階で共有すること』、今もポリシーにしているこの言葉も彼から学んだことだ。
勤めていた大手IT企業を辞め起業したという彼は、当時にはなかった大人の色気を纏っていた。
「麗香ちゃん、随分綺麗になったね」
そんな勇仁の思わせぶりな言葉と視線に、私は久々に恋の予感を覚えた。
―私、この人と何かありそう♡
それから、すぐにその場でこっそりとデートの約束を取り付けた。
忙しい私たちがリスケを何度か繰り返し、やっと迎えたデート当日はお食事会から1ヵ月も経った梅雨の晴れ間の金曜だった。
リップはイブサンローランNo.15。ティファニーの揺れるピアス。
ここぞというデートのときに身に着けるアイテムで武装し、私は待ち合わせ場所に向かった。
「麗香ちゃん、なんか今日、この前と雰囲気違うね」
彼が、目を細めて私に送る好意のサインにとびきりの笑顔で返す。
そして広尾のイタリアンレストランで食事をした後、私は恵比寿にある彼の家へと誘われた。誘われたというよりは、気づいたら流れるように彼の家に向かっていたのだ。
「もしかして、勇仁くんのお家に行くんですか?」
道すがら気づいてはいたけど、一応そんな言葉を投げかけてみた。もちろん私も知っていたから。『付き合う前に一線を越えたら本命になれない説』を。
「家で飲みなおさない?もっと一緒にいたいし、麗香のこともっと知りたいから」
そう言って彼は私の右手を握ってきた。その手は大きくて温かく心地よかった。夜風が少し酔った私の頬をかすめていく。
ーこんな時どうするのが正解なんだっけ?
一瞬考えたが、正解なんてどうでもよかった。私も彼と一緒にいたかったし、この手を離したくなかったから。それに、多忙な私たちは、次にいつ会えるかもわからない。だから、このチャンスを絶対に逃したくなかった。
この記事へのコメント
久しぶりのヒット😆
普段から仕事もプライベートも充実させてる人だからこその自信かなー?
"迷ったら走れ"って人もいたけどw