SPECIAL TALK Vol.66

~「やるべきことを、時間をかけて丁寧に」。多分野での挑戦を経て見えてきたものがある~

人気テレビ番組への出演。大ヒットは意外なところから

金丸:鶴太郎さんが最初にブレイクしたのは「小森のおばちゃま」(映画評論家・小森和子氏)のモノマネですよね。

片岡:そうです。あれが一発目です。

金丸:一度見たら忘れられないインパクトでした(笑)。

片岡:モノマネって先に誰かがやって、それがウケちゃえば、もう手がつけられないんですよ。

金丸:比較されちゃいますからね。

片岡:そうなんです。だから「最初にやる」というのは特許みたいなもの。モノマネ業界にはそういう暗黙の了解があります。自分で新しい人を見つけてこなきゃいけないし、「こいつ、この人を持ってきたか!」「そういうふうにマネするか!」とハッとさせるようなセンスが問われます。

金丸:その後は、『オレたちひょうきん族』ですよね。

片岡:"ひょうきん族"は毎週水曜日が収録でしたが、あるとき、テレビ局に呼び出されて、歌番組『ザ・ベストテン』のランキングで、近藤真彦さんの『ギンギラギンにさりげなく』が1位になると聞かされました。「だから歌を覚えて、マッチのモノマネやって」と。それを言われたのが、日曜日で。

金丸:水曜収録で、日曜に言われたということは……。

片岡:そう、3日しかないんですよ(笑)。一生懸命練習しました。声はあまり似せられなかったけど、「マッチでぇーす!」と叫んで、とにかくやりきって。台本には「セットが壊れて下敷きになり、マッチは死ぬ」と書いてありました。

金丸:それはひどい(笑)。でも、よく覚えています。めっちゃくちゃ面白かった。

片岡:「マッチは死ぬから、この1回で終わりだ」と暴れまわったんです。それが大反響で。1回やったら終わりのつもりが、10年やることになりました(笑)。

金丸:3日で準備したモノマネが代表作のひとつになるって、運命はわからないものですね。でも本物のマッチに会う機会もあったでしょう。何か言われませんでしたか?

片岡:向こうは僕より10歳若くて、15、16歳でスターになってるから、会うと僕のほうが卑屈になっちゃって。「マッチ、ごめんね」と言うと、「いやいや、いいよ。鶴ちゃんもっとやってよ」と。

金丸:さすがスターの貫禄です(笑)。ところで、鶴太郎さんは「チャンス」をどういうものだと捉えていますか?向こうからやってくるものか、それともこちらから取りにいくものか?

片岡:何もないところには来ないと思います。やっぱり何か種を撒いている人のところに、向こうからやって来るものじゃないでしょうか。

金丸:ということは、行動なり意識なり、何らかの準備が必要だと。

片岡:そうですね。だから「チャンスがなかった」というのは言い訳だと思いますね。

金丸:鶴太郎さんは自分で判断して、自らアクションを起こしています。弟子入りにしても、失敗したらすぐ次の行動に出て、道を切り拓いている。それに行動を起こせば予想外の展開はつきもので、横澤さんと10年後に"ひょうきん族"で再会したのも、鶴太郎さんの行動があったから、そういう出会いを引き寄せられる。

片岡:僕は縁というのは、天からの授かりものだと思うんですね。天から授かったものなのだから、絶対に粗末にしてはいけないと。

金丸:縁を粗末にすると運が逃げる、と言いますよね。私も縁や運というのは、単なるラッキーじゃなくて、日頃の努力があってこそだと考えています。その上でうまく取り込むのも逃すのも自分次第。だけど、そもそも世の中の多くの人が自分からあまりアクションを起こそうとしません。

片岡:それはあるかもしれません。

金丸:考えているだけで行動が伴わないから、相手も反応のしようがない。その点、鶴太郎さんは、自分の思い描いたイメージを実現させるために、アクションを起こしている。壁にぶち当たることもあるけれど軌道修正も早い。反射神経や直感も優れているのでしょうね。

片岡:確かに直感はとても大事にしています。ふと頭に浮かんだことだって、気まぐれや出来心ではなく、いただいたものだと思っています。だから、絶対そこに何かがある、やってみるものだと。今は見えなくてもケシ粒くらいの何かの種があるはずだから、大事にしたいんです。

「突然変異」かと思いきや受け継がれていた絵師の血

金丸:ところでご両親の話を聞いていませんでした。お父様は何をされていたのですか?

片岡:父は神田の果物屋のせがれです。母も下町の生まれですが、羽子板絵師の娘なんですよ。

金丸:絵師ですか。しかも羽子板。

片岡:そうです。僕は祖父が絵師だったことを知らなくて。だから、「自分は突然変異で絵を描いているんだ」とずっと思っていました。ところが絵を描き始めて5年くらい経ってから、母に「何言ってんだ。おまえのじいちゃんは羽子板の絵師だったじゃないか」と言われて、驚いたと同時に「早く言ってくれよ!」と思いましたね。でも母は「だっておまえ、子どものときに会っただろ。それを知ってて描いてんのかと思ってたよ」って。

金丸:記憶から忘れ去られていたわけだ。

片岡:母の言葉を聞いて、ご先祖様とのご縁を感じましたね。「あー、やっぱり俺は出来心で絵を描いてるわけじゃないんだ」と本当に嬉しくて。俄然自信を持ちました。

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