SPECIAL TALK Vol.63

~信用するけど、頼らない。独自の経営哲学で日本の外食を変革してきた~

大学を中退し就職。最初から独立ありきだった

金丸:大学ではどんな学生生活を送っていたのですか?

西山:授業にはほとんど出ませんでした。

金丸:相変わらずの勉強嫌いですね(笑)。授業がつまらなかったとか?

西山:いや、つまらないというより、自分で事業をやろうと決めていたので、あまり意味がないなと思っていました。パーティー券を売りまくったり、イベントを企画して学生起業家のようなこともやりましたが、やはり学生は学生。早く本格的な事業を経験したくて、1年で中退しました。

金丸:見切りをつけるのが早い。私も大学ではすぐ授業に行かなくなって、フラフラしていましたけど(笑)。それで中退して、すぐに起業したのですか?

西山:いえ、まず不動産の会社に就職しました。

金丸:それはなぜでしょう? お父様の影響ですか?

西山:確かに父の影響はありますね。就職した会社は父に紹介してもらいましたし。でも一番大きかったのは、不動産は若くても独立しやすい業界だと考えたからです。私も最初は雑用でしたが、半年後には営業をやらせてもらうようになり、すぐ売上トップに。

金丸:さらっとおっしゃいますけど、すごいですよ。やはり最初から独立を考えていると、結果も違う。

西山:身につけるべきノウハウはすべて吸収して、1年ほどで会社を辞め、渋谷のワンルームマンションを借りて起業しました。それが21歳のときです。

金丸:本当に行動を起こすのが早いですね!

西山:資金がないので、売買ではなく賃貸の仲介から始めて。

金丸:そうやって不動産業で独立して、そこから飲食業に行くまでにいったい何があったのですか?

西山:それが、本当にいろいろあって……。不動産は10年くらいやりましたが、「営業ができるからといって、マネジメントができるわけじゃない」ということを痛感しました。

金丸:確かに「優れたプレイヤーが優れた経営者」というわけではありませんね。

西山:ある日会社に行くと、従業員がみんな辞めていたということもあったし、金庫から600万円が消えていたこともありました。社員がグルになって横領事件を起こしたんです。そんなふうに裏切られたのは、私と社員の信頼関係がまったく出来ていなかったから。つまりは経営者として、自分がいかに未熟だったか、ということです。しかもバブル崩壊もあって事業は鳴かず飛ばすで。いつも悶々とした日々を送っていましたね。このままじゃだめだ、という思いばかりが募って。

金丸:マネジメントの問題というのは、多くのベンチャーが経験する壁です。西山さんはその壁をどのように乗り越えたのですか?

西山:実は、マネジメントの勉強をするために、マクドナルドでアルバイトをしました。

金丸:アルバイトですか。それは不動産もやりながら?

西山:はい。というのも、私は「自分で売り方を考えて成果を出す営業は、職人と同じだ」と考えていました。でもマクドナルドは、職人がひとりもいないのに大きな収益を上げている。だったら、マクドナルドのやり方を学ぼうと思ったんです。

金丸:社長とバイトの二足のわらじは、聞いたことがありません。成果はありましたか?

西山:大いにありましたね。マネジメントのしくみもそうだけど、お客様をいかに喜ばせるかということについて学びました。なかでも衝撃的だったのは、マクドナルドはポテトを揚げてから7分経つとすべて廃棄する、ということでした。

金丸:それはもったいない。

西山:私もそう思ったし、実際に店長にも言いました。すると「あなたがお客様だったら、冷めたポテトを食べたいか?」と聞かれて。

金丸:それは……。嫌ですね。

西山:そうですよね。いかにお客様を喜ばせるか、感動させるか。そういう視点は、恥ずかしながら当時の私にはまったくありませんでした。そこからお客様、そして社員が感動するような仕事がしたい、と思うようになりました。

ド素人から1,000店舗まで7年。学ぶ姿勢が異例のスピードを生んだ

金丸:マネジメントについても何か変化はあったのでしょうか?

西山:「従業員を信用するけど、頼らない」という方針に変えました。業績の良し悪しを社員やアルバイトに頼るのではなく、業績の責任はこちらが負うから、こちらが作ったしくみの中で動いてもらうようにしたんです。

金丸:経営者が事業の方針やデザインをきちんと組み立て、従業員にはそれを徹底してやってもらうということですね。

西山:徹底してやってもらった結果をみて評価する、という考え方です。業績を上げるためには、細かく管理することが重要ですが、全部をこちらで決めても現場がまったく頭を使わなくなってしまう。なので、そういう細かな部分は現場に任せています。言うなれば期待しすぎない状態を作って、その上で期待するという。

金丸:面白い発想ですね(笑)。でも、人に頼らないしくみを作れば、裏切られるリスクは最小限に抑えられます。

西山:そうですね。「最大のリスクはなんだろう」といつも考えています。

金丸:私も周りからは、「攻撃が得意だ」と思われていますが、実はディフェンスを固めないと安心できないタイプで。だから何かやろうとするとき、私はまずリスクを大きな順に並べてひとつずつ洗い出し、リスクを消し込んでいきます。それを繰り返すことで、リスクがだんだん小さくなっていく。

西山:併せて「最大のリスクが起きた場合、自分が潰れないか」ということも考えますね。ただ、創業のときはそうはいきません。もともとリスク以外は何もないから。

金丸:おっしゃるとおりです(笑)。そして、いよいよ飲食業に?

西山:はい、30歳で“牛角”の前身となる店を作りました。

金丸:“牛角”はものすごいスピードで店舗数が増えましたね。

西山:7年半で1,000店舗の大台に乗せました。

金丸:凄まじい! 焼肉どころか、外食のド素人だったのに。

西山:ド素人でしたね(笑)。肉や酒をどこから仕入れたらいいのかわからなくて、タウンページで卸業者を調べて電話をかけ、店に押しかけていましたから。

金丸:でも「知らない強さ」ってありますよ。怖いもの知らずのうちは、ガンガン攻めることができる。逆に知識がついてくると、「これは無理だろうな」と途中で諦めてしまうこともあります。

西山:そうですね。“牛角”がうまくいったのは、まさに「知らない強さ」ゆえです。外食産業にド素人だった私からすると、「なんでこうじゃなきゃいけないの。もっとこうしたらいいのに」と思うことがたくさんあって、変えたほうがいいと思ったことはすぐに実行していました。もちろんうまくいったこともあれば、失敗したこともあるけれど、失敗はその都度分析し、次に活かすようにしていましたね。

金丸:西山さんは、分析するのは得意なほうですか?

西山:昔はそうでもなくて、感覚に頼っていた部分もありましたが、今では何でも分解して考えます。

金丸:要素を分解することは重要です。一見複雑で困難に見えるものも、分解して初めてきちんと考えることができる。最小粒度にし、その要素をひとつずつ考えて「これはやっぱり難しい」と判断するならいいけど、大きな塊のまま眺めて「うーん」と唸っていてもしかたない。ちなみに、最初のお店はオープンしてからすぐ軌道に乗ったのですか?

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