シャンパンで乾杯し、いつもとは違って少し甘やかな空気が漂う、二人だけの時間が始まった。
「本当に、三浦さんのおかげでうちが苦労していた若い世代へのアプローチに大成功しました。ありがとうございました」
尊人は真剣な顔で、ペコリと頭を下げる。そんな真面目な様子に結衣はクスリと笑った。
「どうして笑うんですか」
ちょっとムッとしたように尊人が切り返す。
「あ…、ごめんなさい。打ち上げだけど、仕事のことは忘れたいから金曜日にしましょうって仰ってたので。塚本さん、仕事熱心だなぁって思ったんです」
「いや……緊張して何話していいかわかんなくて」
照れながら答える尊人の表情に、結衣は明らかに動揺した。パートナーとして3ヶ月間毎日のように連絡を取り合っていた尊人のことを、急に特別な存在のように感じていることを自覚した。
食事が進むにつれ、尊人の最初の緊張は嘘のように会話が弾んだ。結衣は、純粋に尊人との時間を楽しんでいた。
尊人は食事中に何度も、結衣のことを「かわいい」と言う。
異性、しかも素敵だと思う相手からそんな言葉をかけられるのは久しぶりで、くすぐったいような、でもやはり嬉しくて、自然と頰が赤くなる。
しかしそんな尊人の言葉も素直に受け取れない結衣がいた。尊人は、自分より7歳も下の25歳。「私が、もう少し若ければよかったな」そんな思いが結衣の気持ちを支配する。
そうすればもっと……
「あの、三浦さん…いや、結衣さん」
結衣の思考を尊人の言葉が遮った。
「こんなところで食事をするなんて、結衣さんからしたら当たり前のことかもしれないし、もしかしたら結衣さんには既に素敵な彼氏がいるかもしれない……」
「でもこのまま今日家に帰ったら後悔しそうなので」
「僕、結衣さんのことが好きです。ずっと素敵だなと思っていたんですけど、プロジェクトが成功するまでは言わないでおこうって決めていて。僕と、付き合ってほしいです」
―え……?
結衣の心臓は、まるで耳元で鼓動しているかのように音を立て始めた。尊人の表情は、先ほどまでの年齢差を気にする結衣の不安を掻き消す。
◆
その後、結衣と尊人は付き合い始めた。
それまで仕事に全てを費やしていた結衣の毎日だったが、尊人の存在が加わることによって、華やかに彩られた。
尊人がたくさん口にしてくれる「好きです」「かわいい」といった言葉も、初めは気恥ずかしかったが、少しずつ心地よさを増してくる。
尊人を好きだという気持ちも日増しに大きくなっていくのを自覚していた。
まさか、32歳になってこんな日がやってくるなんて思ってもいなかった結衣は、尊人との時間に幸せを感じながら日々を過ごしていた。
しかし、そんな幸福な時間は一瞬にして終わりを告げたのだった。
「結衣さん、ごめんなさい。別れてほしいです」
付き合い始めて3週間ほど経った頃、何の前触れもなく突然、尊人から別れを告げられた。
「どうして、こんな突然……?」
あまりにも唐突なことに、結衣は悲しむ間も無く問うた。
「それは……」
尊人は気まずそうに口を開いた。
▶︎NEXT:12月30日 月曜更新予定
突然別れを告げられた結衣。尊人が振った衝撃の理由とは一体?
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この記事へのコメント
お子ちゃまの考えることはわかんないわ。
告白も別れ話も直球ですね。理由が気になります。