「あ!そうでした!例のメーカーさんから電話があって。もう一度来てほしいっておっしゃってたので、結衣さんのスケジューラー見て、予定入れておきました」
「本当?ありがとう。これはもう決まったも同然。今月は余裕で目標達成ね」
結衣はさっきまでの恋愛の話をすっかり忘れて喜んだ。
「結衣さん、そんな調子だと、この先もしばらくは恋愛できなさそう……」
そんな夕里子のつぶやきは、もちろん、もう結衣の耳には届いていなかった。
―数日後。
「それでは、これからパートナーとしてよろしくお願いいたします」
会議室で、広報担当の塚本尊人(たけと)がそう言い、結衣は深々と礼をした。国内の大手医薬品メーカーとの契約が決まったのだ。結衣は心の中でガッツポーズをしていた。
会議室を出てからエレベーターまで向かう時間で、結衣は口を開く。
「塚本さん、ずいぶんお若そうに見えますが、しっかりしていらっしゃいますね」
「実はまだ25歳なんです。古い業界ですから、広報は若い者の意見もどんどん取り入れて新しい取り組みをしようという会社の方針で、去年からこの部署に移ってきました」
さらりと笑顔で答える尊人に結衣は好感を抱いた。
「お若いのに素敵です。新しいこと、どんどんチャレンジしていきましょう!色々とお力添え出来るようにこちらも頑張りますね」
それからの3ヶ月は、尊人の会社の新しいウェブ広告の提案や制作、検証に大半の時間を費やした。
尊人も、一生懸命だった。
尊人からのメールが深夜に返ってくることもしばしばあり、きちんと眠れているかな?と結衣が心配するほどだった。
それでもなんとか形にして、実際に広告の運用が始まった。ウェブ広告は効果が早く分かるため、結衣も運用が始まってから数日は、緊張した時間を過ごしていた。
そんなある日、尊人から電話がかかってきた。
「すごいです!めちゃくちゃ売れています!ウェブの広告効果が凄まじくて。ありがとうございます!……あ!!すみません、お世話になってます、塚本です」
あの尊人が、挨拶を忘れるほどの結果が出ているらしい。その声は明らかに弾んでいた。うまくいっていると知り、結衣もほっと胸を撫で下ろし、「こちらこそありがとうございました」と返答した。
「で、よかったらなんですけど……」
周囲を気遣ってか、尊人の声が急に小さくなった。
「今週の金曜日にでも、二人で打ち上げしませんか?」
その口調には、仕事の打ち上げ以上の何かが含まれている気がして、結衣の心は高ぶった。
◆
尊人との打ち上げの日はあっという間にやって来た。
結衣は仕事終わりに化粧を直しながら、誰かとの待ち合わせをこんなに楽しみにしたのはいつぶりだろうと心踊らせていた。
「三浦さん、こんにちは。お待たせしました。私服も素敵ですね」
南青山にある『ミモザ』の前で結衣が待っていると、尊人がやって来た。
この記事へのコメント
お子ちゃまの考えることはわかんないわ。
告白も別れ話も直球ですね。理由が気になります。