2019.11.21
SPECIAL TALK Vol.62吉田:私が留学した80年代後半から90年代前半にかけて、ちょうど留学ブームが起きていました。私もそのブームに乗っかってはいるんですが、これもまた逆行というか、日本人が大勢いるニューヨークやカリフォルニアはちょっとな、と思いまして。
金丸:せっかく行くなら、周りに日本人がいない環境がいいと。
吉田:ええ。短期間で父から承諾を得ての留学だったので、英語が万全というわけでもないし、とにかく早く英語を話せるようになりたかったんです。
金丸:あとは実践あるのみ。
吉田:だからこそ、日本人がいない短大を選びました。スーツケースのなかに大きな辞書を入れて、とにかく現地に行って学ぼう、と飛び込みました。
金丸:しかし、自分で選んだとはいえ、周りに日本人が誰もいない環境のなか、最初はどうでしたか?
吉田:カルチャーショックというか、まずコミュニケーションが取れませんでした。私は語学留学ではないので、初日から正規の授業に出席したのですが、英語が全然聞き取れないし、しゃべれなくて。
金丸:英語はまず聞く耳ができていないといけませんから。英語が話せないうちは、どうやってコミュニケーションを取ったのですか?
吉田:私の英語力だと、「トイレに行きたい」すら通じませんでした。だったら、言葉以外で伝えるしかない。携帯電話なんてない時代でしたから、トイレに行きたければ、紙にトイレの絵を描いて「これだ」と見せて。
金丸:それは面白い。
吉田:スケッチブックとペンをいつも持ち歩いていましたね。
金丸:絵はもともと得意だったんですか?
吉田:いいえ、まったく。でも、そうしなければ伝わりませんから。そうやって言葉に頼らず、自分の五感を生かしたやり取りをしていたことで、表現力やコミュニケーション力が磨かれていったように思います。
金丸:知りたいという好奇心を原動力に思い切って飛び込んだからこそ、そこから先の世界が拓けた。吉田さんはそれを体現していますね。
東欧の建築に衝撃を受け、インテリアデザインの道へ
金丸:ところで、デザインの話がまだ出てきませんが(笑)。デザインに目覚めたのは、在学中ですか?
吉田:ええ。短大ではリベラルアーツを学んでいました。日本で言うところの「一般教養」ですね。哲学から数学まで、いろいろな分野について総合的に学ぶのですが、特に美術の授業がすごく楽しくて。ある先生が「恵美の感性だったら、デザインも面白いかも」とアドバイスしてくれたんです。
金丸:吉田さんは先生に恵まれていますね。
吉田:言われたときは、そこまで重く受け止めていませんでしたが、在学中にサマースクールで、チェコのプラハを訪れたとき、東欧の建築物を見てすごく感動して。この言語を超えた表現力はいったい何だろう、すごいなと圧倒されました。
金丸:それが、デザインの世界に入るきっかけだったんですか?。
吉田:はい。建築のなかでも外観ではなく、いつも自分が触れ合う空間をデザインしたいと思いました。それで「そういうデザインをする人って、なんていう職業なんだろう」と調べてみたら、「インテリアデザイナー」だったんです。
金丸:じゃあ、もともとインテリアデザイナーという職種があることも知らなかったんですね。
吉田:だから本当に遅いスタートでした(笑)。
金丸:言ってみれば、まったくの素人の状態から、どうやって仕事にしていったのですか?
吉田:まずデザインを学ぶために、4年制のアイオワ州立大学に移りました。
金丸:アイオワって、ミネソタの南隣りですよね。やっぱり大都市ではない。
吉田:ミネソタに友達がたくさんいたので居心地がよくて。アメリカでもみんなにびっくりされるんですよ。「恵美はどこの大学行ったの? えー、アイオワ!?」って(笑)。
金丸:アメリカの人たちも、そういう田舎から吉田さんみたいな人材が輩出されると思っていないんでしょうね(笑)。
吉田:田舎は田舎ですが、アイオワ州立大学は工科大学で、技術系がすごく重んじられていました。設計に使用する「AutoCAD」というソフトウェアに関しては、当時全米のトップを走っていたんですよ。
金丸:じゃあそこで、しっかりと技術を学んで。
吉田:はい。今やデザインの世界も、ソフトウェアの重要性がますます高まっています。私はフリーとして、プロジェクトごとにチームを作っていますが、コラボするデザイナーたちはCADが使えて当たり前ですし、ミーティングはZOOMだし、3Dのデザインもオンライン上で行います。
金丸:感性が求められるデザインの現場にも、新しい技術がどんどん取り入れられているんですね。
吉田:ですから、その基礎となる技術を大学時代に身につけられたのは、とても大きいですね。これまではほかのデザイナー、つまり人との競争でしたが、今は技術との競争が激しくなっています。
金丸:新しい技術が次々に出てくるから、キャッチアップも大変でしょう。
吉田:本当に大変です。今の大学を卒業してくる子たちは、幼い頃からiPadに触れている世代です。履歴書にも様々な技術が10個ぐらいずらーっと並んでいたりする。だからといって、現場力があるかというとまた別の話ですけど、でもやはり新しいものを受け入れ続けていかないと、仕事としては成り立ちません。
金丸:就職は最初からデザイン系を志して?
吉田:はい。インターンシップで大手建築会社に行き、しっかりと現場を学んだこともあって、シアトルの企業に就職できました。それが1994年のことです。まずはアシスタントとして、ホテルやレストランの商業デザインやコンドミニアムを中心とする住宅デザインに携わり、シアトルにあるスターバックス本社の仕事にも参画しました。
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