2019.10.23
僕のカルマ Vol.1目の前に現れた、かつての同級生
やはり運は俺に向いている。氷室は、改めてそう思った。
本日の会食の相手、神原会長とたまたま地元が同じだっただけでもラッキーなのに、同じ高校の出身でもあることがわかったのだ。
神原会長と氷室が通っていた高校では、文化祭や体育祭が学生主体で行われていたが、それらは他校とは比べ物にならないほどの本気度だった。生徒がゼロから作り上げるという学校の方針のもと、勉強そっちのけで準備するのだ。
だから、たとえ同じ期間に学校に通っていなかったとしても、「体育祭」というワードだけですぐに盛り上がり、「面倒だった」「仲間割れした」など、感情を共有することが出来る。
共通項の探り合いなどなく、人間関係の構築の第一歩が進められる。商談の際にはそれだけでもかなりメリットが大きい。
「そうかぁ。もう記憶もおぼろげだけれど、その頃から運動会の色分けはその4色だった気がするなあ」
「へえ! そうなんですか。では応援団伝統の応援歌などは…」
「そういえば、副社長も同じ高校出身なんだよ。今度は彼も呼ぼうか」
「ぜひお願いします」
テーブルに額をつける勢いで頭を下げながら、氷室の口角は自然と緩んでいた。
−パートナーもほぼ確実、お偉いさんとのコネクションも上々。あとは大型案件の一つでも。
その時である。
「おや、あそこにいるのは堀越くんかな」
神原会長はレストランの入り口に視線を向けた…と同時に、あっ、と声を上げる。
「そういえば彼、上場準備のために弁護士を探しているって言ってたな。氷室くん、話だけでも聞いてやってくれないか」
−上場準備か…、悪くない。
「おうい、堀越くん」
男を呼び寄せた神原会長は、氷室に彼を紹介してくれた。
「こちら、堀越裕一くん。ベンチャー企業をやっていてね、僕は彼のお父さんと知り合いなんだ。堀越君、こちらは氷室徹くん。うちの会社を手伝ってもらっている弁護士だ。
少し話してみたらいい。私はちょっとお手洗いに…」
目の前に現れた男を見るなり、氷室は固まった。
−ほ、堀越裕一って。あの…!?
切れ長の目、特徴的な丸い鼻、そして意志の強そうな太い眉。少し猫背気味の姿勢。
中学時代。ひむろ、ほりこしの並びで、五十音順の座席でいつも自分の後ろの席にいた、あいつだ。
「堀越、だよな…?なんていう偶然なんだ。いやあ、久しぶりだなあ!」
氷室が驚いた顔で聞くと、堀越は無言で頭を下げた。
「元気してたか?よく一緒に遊ん…」
そこまで言いかけて、氷室は固まってしまった。
頭を上げた堀越の顔を見ると、目は真っ赤に充血し、今にも溢れ出しそうなほど涙が溜まっているではないか。
涙をこらえているのか、視線を天井にやったり、目をぎゅっとつぶったりしている。
大人の男が泣いている姿を見るなんていつ以来だろう。突然の出来事に理解が追いつかない。
「おい、大丈夫か?」
動揺した氷室がハンカチを差し出すと、堀越はハンカチを受け取ることもなく、目を逸らしたままこう答えた。
「過去のこと、色々思い出しちゃってさ。…氷室君は覚えてないだろうけどね」
−過去のこと…?俺は覚えていない…?何のことだ?
堀越との思い出は、他の同級生と同じく、平穏でありふれたものと記憶していたため、頭が混乱する。
それもそのはず。
なぜなら、この時氷室は、堀越の涙の意味を知る由もなかったのだから。そして、これから自分の人生が狂っていくということも。
▶︎Next:10月30日 水曜更新予定
氷室の前に現れた、かつての同級生・堀越。彼は何かを企んでいる…?
※本記事に掲載されている価格は、原則として消費税抜きの表示であり、記事配信時点でのものです。
【僕のカルマ】の記事一覧
2020.01.08
Vol.13
「仕事も女も、一瞬で失った…」年収2,000万超えのエリート男が転落した、本当の理由とは?
2020.01.07
Vol.12
「自分は勝ち組」と調子に乗り、家庭を顧みなかったエリート男の末路。「僕のカルマ」全話総集編
2020.01.01
Vol.11
「もしかして、ハメられてた?」美人秘書と火遊びした弁護士の男に、下された天罰
2019.12.25
Vol.10
リビングに、不穏な物が…。夫の行為に対する、姿を消した妻からの仕打ちとは
2019.12.18
Vol.9
「まさか、妻のしわざ…?」エリート夫を震え上がらせた、写真付きのメール
2019.12.11
Vol.8
「彼女は、心のオアシスなんだ」仕事に勤しむエリート男が、本能で取ってしまった行動
2019.12.04
Vol.7
「彼女を見る目が変わった…」。秘書の女と一晩過ごした男の、胸の内とは
2019.11.27
Vol.6
「どうか私をお使いください…」。エリート男の理性を狂わせた、禁断の相手とは
2019.11.20
Vol.5
「あの場所が、僕のシェルターだった」。今をときめく社長の原点となった、壮絶な出来事とは
2019.11.13
Vol.4
妻を置き去りにし、夫はホテルで一夜を…。順調だったはずの夫婦に訪れた悲劇とは
おすすめ記事
2018.03.13
花の第1営業部
花の第1営業部:40歳までに部長になる!広告代理店の花形部署で働く男(35歳)の野心
2020.04.18
男と女の答えあわせ【Q】
「あんなにお互い好きだったのに…」婚約していた彼女の態度が、急に変わったのはナゼ?
2019.09.28
結婚3年目の危機
結婚3年目の危機:夜中に夫のバッグを漁る妻。証拠と共に突きつけた、交換条件ー妻の言い分ー
2021.02.06
乗れるものなら、玉の輿
乗れるものなら、玉の輿:溝の口・家賃8万の部屋に住む“ひとり焼肉女子”。彼女が結婚相手に求める唯一の条件
2023.11.07
東京ウェンズデー
アッパー層は、自分だけの”特別なルーティン”を持っている!?明日で最終話!「東京ウェンズデー」全話総集編
2016.06.22
幸せな離婚 written by 内埜さくら
幸せな離婚:病院で“あの女”との直接対決! そして妻の知らない新たな事実が明るみに
2023.11.08
東京ウェンズデー
薄給のTV局ADが、彼女に婚約指輪を買おうとしたら破局。その代わりに13万円で買ったものとは…
2018.07.18
恋と友情のあいだで~廉 Ver.~
「君だけは、抱けなかった」。女慣れした商社マンが、たった一人の女に寄せる純情な想い
2020.08.07
私、マスクしてるとモテるんです
私、マスクしてるとモテるんです:自粛中に家へ招かれた女。ついて行った彼の部屋で、見たものとは
2016.01.01
東京女子図鑑
ヒット小説総集編:東京女子図鑑(全話)
東京カレンダーショッピング
『秋田かまくらミート』:秋田を代表するブランド牛「秋田由利牛」!サシの美しい上質なしゃぶしゃぶ用サーロイン
『肉のABCフーズ』:黒トリュフ塩付!牛タン&A5ランク黒毛和牛を使った極上ハンバーグ
『パンツェロッティ』:具材ごろごろボリューミー!フレッシュな野菜と肉感満載のフライドピッツァ
『HAL YAMASHITA 東京』:シルクのようななめらかさ!冷え冷えトロリの新食感"ウォーターチョコレート"
『レザンファンギャテ』:しっとりと濃厚で、コクのあるニューヨークスタイルのチーズケーキ
『ル・ボヌール 芦屋』:しっとりサクサク!フリーズドライ苺にホワイトチョコをたっぷりと浸透させた新感覚スイーツ
ロングヒット記事
2024.04.23
今日、私たちはあの街で
3回目のデートで、終電を逃した28歳女。翌朝、男が激しく後悔したワケ
2024.04.23
Editor's Choice~fashion~
最大10連休のGWのお出かけに!カラフルなミニボストンバッグが、万能な理由とは?
2024.04.25
Editor's Choice~beauty & wellness~
すれ違ったときに香るぐらいが好印象!大人のニオイ対策には、上質なランドリーアイテムを取り入れて
2024.04.26
大人の週末ToDoリスト
GWは東京でヨーロッパ旅行気分! 『イタリア展 2024』や『フランス展 2024』などイベント3選
2024.04.28
Editor's Choice~gourmet~
最高に気持ちいい空間で、ラグジュアリーな外飲み体験!今から楽しめるビアガーデン6選
この記事へのコメント