「顔なんて、足切り条件でしかないね。可愛いだけの女には会いたくならない」
心のどこかで自分が否定された気持ちになったミハルは、匠に聞いた。
「でも、飲み会とかする時って男の人は絶対、“可愛い子連れてきてね”とか言うじゃないですか」
口を尖らせるミハルのことは気にする素振りもなく、匠は飄々と言葉を続けた。
「飲み会とかに呼ぶ子ってさ、あの子は歌が上手いからカラオケ要員、あの子は明るいから盛り上げ要員、とか、その時の“要員”でしかないんだよね。でも二人でまた会いたいって思うのは、自分の美学を持ってるような子かな」
「美学…、それって例えば?」
「『アラジン』に出てくるジャスミンはさ、ただの可愛いお姫様じゃなくて、一人の女性としての美学を持っていたよね。逆に、ミハルさんみたいなミーハー女子って、上っ面ばっか気にして、一緒にいても得るものなさそうで、会いたいって思えないんだよね」
自分のことを、会いたくなる女だと思っていたミハルは、悔しさと恥ずかしさから、早口に言い返した。
「私は別に上っ面を気にすることが、悪いことだと思わないです。むしろ、仕事にだって役立ってるし…」
「そうかな。俺からしたら、中身のない勘違い女、って感じだけど。ミハルさんはさ、美学とかあるの?」
「美学…」
思えば学生の頃から、みんなの仲間に入ることに一生懸命だった。けれど、他の子達みたいに、辛い思いや努力をして、周りに褒められるほどの何かを達成したこともなかった。
それでも、何かで認められたくて、煌びやかな生活をすることで、ようやくみんなに憧れられて、受け入れられていると思っていた。
ー私は”中身のない勘違い女”なの?
匠の言葉がミハルの頭の中で鳴り響く中、匠がミハルに語りかけた。
「でもね、自分で気づいてないだけで、ミハルさんには美学があると思うんだ」
「どういうこと?」
「俺の話、適当にうけながすことだって出来たのに、ちゃんと考えてくれたでしょ。普通ならうまくやり過ごそうって思うはずのことに、真正面からぶつかりにいくって、俺には出来ないし、それがミハルさんの美学じゃない?」
そう言うと、突然、匠はミハルの手を掴んだ。
「そういえば、ちょうどミハルさんみたいな子にぴったりなところがあるんだよね。きっと、好きだと思う」
「え、待って。どこ行くの?」
ミハルが慌てて聞くと、匠は片方の口角だけを上げて、ニヤリと笑ってみせた。
ーえ、この人、大丈夫!?
そんな心の声を聞かれているはずもないのに、匠はまるでそれを見透かしているかのように、一言だけこう言った。
「俺を信じて」
ーえ、信じろって言われても…!
急に繋がれた手を振り払う余裕もなく、ミハルはただ匠に言われるまま、一歩を踏み出したのだった。
▶︎NEXT:10月13日 日曜更新予定
ステータスの低い男性なんてありえない。ミハルが連れて行かれた先で発覚する新たな勘違いに匠は?
この記事へのコメント