映画が終わり、仲睦まじくおしゃべりしているカップルで溢れるスクリーンを足早に去ろうとしていると、後ろから聞き覚えのある声がした。
「あれ、ミハルさん?」
振り向くと、そこにいたのは以前ファッションブランドのローンチ案件で一緒になった広告代理店のクリエイティブプランナーの匠だった。
少年のようにキラキラと輝く茶色い瞳と切れ長の目。髭を生やした口元は、口角がキュッと上がっており、それが妙にミハルの印象に残っている。
長身細身で筋肉質の身体からは、ふわりと香水の匂いを感じた。
「まさか『アラジン』、一人で観に来たの?」
ミハルが一人でいることに気がつき、少し意地悪そうに質問をする匠にムッとしたミハルは、思わず言い返す。
「違います。元々は商社マンと一緒に観る予定だったけど、仕事で急に来られなくなっちゃって。チケット勿体無いし、仕方なく一人で観ただけです」
「ふーん、そっか。ねぇ、それより映画、どうだった?」
「すごく良かったです。歌が上手で、映像も綺麗で」
「それだけ?」
「え?」
「映画観て感じたこととか考えたこととか、何も無いの?」
「いや、特に…」
「へぇ。まぁ、ミハルさんみたいな子は、そうだよね」
匠の見下すような一言にカチンときたミハルは、食い気味に返事をした。
「強いていうなら、“会いたくなる女”って、なんだろうって思いました」
「会いたくなる女、か。面白い視点だね」
その感想に興味を持ったのか少し目を見開いた匠に、ミハルは聞いた。
「匠さんにとって会いたくなる女って、どんな子ですか?顔が可愛いとか?」
ミーハー女
日々、新しいショップやレストランがオープンし、アップデートを繰り返す街・東京。
東京で、そのすべてを楽しみつくそうとする女を、時として人は「ミーハー女」と呼ぶ。
ミーハー女で何が悪い?
そう開き直れる女こそ、東京という街を楽しめるのだ。
PR会社に勤務するミハル(27歳)も、最新のものをこよなく愛する「ミーハー女」である。
ミーハー女・ミハルは、この東京でどう成長していくのか?その物語をお届けしよう。
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