『レフェルヴェソンス』での“ご褒美会”を終えた、その10分後。私はもう、お気に入りのフレグランスが漂う自分だけの城へと戻っていた。
1年前に引っ越したマンションは、麻布十番と赤羽橋の中間あたりにある。
六本木にある会社はもちろん、頻繁に足を運ぶ西麻布や青山も近い。ナチュラルなウッド系の家具と観葉植物で飾ったこの部屋を、私はいたく気に入っていた。
気分良く鼻歌など口ずさみながら、ヘアクリップを外し、まとめ髪をほどく。
カーテンを閉めてワンピースを脱ぎ捨てると、私は下着姿のまま、おもむろに姿見の前に立った。
淡いブルーグレーの下着だけを身につけた、33歳の私の身体。
高校生の頃はむしろコンプレックスに感じていた170cm近い長身も長い手足も、童顔とは程遠い凛々しい顔立ちも、大人になってからは自信を持てるようになった。
仕事の合間を縫って通っているパーソナルトレーニングのおかげで、緩んでいたお腹周りも二の腕も随分締まってきたし、お尻だってキュッと自慢げに上を向いている。
−そうだ。
自身のスタイルにOKサインを出した私は、ご機嫌でクローゼットへと向かう。そして目的の洋服を手に取ると、再び姿見の前へと舞い戻った。
エストネーションで一目惚れをした、ノースリーブのニットワンピ。赤みがかったブラウンのロング丈で、サイドに大きく入ったスリットが女っぽい。
こういう、いわゆるボディコンシャスを魅力的に着こなせるのは、日頃から体型に気を配り、細部まで抜かりなく手入れを欠かさない女だけだ。
途中で諦めてしまった女は、絶対に手を出せない。
だからこそ私は、このワンピを買ったのだ。
来るべきイベント…高校卒業以来、およそ15年ぶりに“彼女”と会う日のために。
“彼女”との確執
私の通っていた高校は、石川県金沢市にある。公立の男女共学で、県内では有名な進学校だった。
東京の私大を目指す子も多く、私と同じ有名私大にも何人か合格していたし、大学は別でも、進学と同時に上京した仲間が複数いた。
しかし同郷の仲間でつるんでいたのは入学して間もない頃だけ。そのうちそれぞれに気の合う友人ができて、自然な成り行きで疎遠となっていった。
目白にキャンパスがある女子大に進学した“彼女”…沢田美緒も、その中の一人。
未だ鏡の前で、ニットワンピに合わせるピアスを選ぶ私の脳裏に、懐かしい友の顔が浮かんだ。
沢田美緒。かつて学校一の美女と言われ持て囃されていた、私の親友。
長身の私とは対照的に、美緒は小柄で華奢で、笑顔が抜群に可愛い美少女だった。
この描写だけで、10代の頃、どちらが男子にモテたかは言わずもがなだと思う。
人懐っこい彼女は「千明、千明」といつも私に甘え、私の腕に手を絡ませて歩く。そんな私たちの様子は、まるで“彼氏と彼女”だと揶揄されていたっけ。
私だって最初は、美緒のことが心から好きだったのだ。
美緒は文句なしに可愛かったし、学校帰りにプリクラを撮るのもカラオケに行くのも、美緒と一緒が一番楽しかった。
事件が起きたのは、高校2年の夏休み前のこと。
一緒に帰る約束をしていた美緒が見当たらないから、私は彼女を探して校内を歩き回っていた。
そこで、見てしまったのだ。
この記事へのコメント
千明は今の美緒をバカにしてたけど、家庭を持って家族を支えることに幸せ感じる美緒にしてみたら穏やかな幸せを30過ぎても知らない千明のほうが哀れに見えるかもしれないです。
生活してる場所や環境で価値観はどんどん変わって...続きを見るいきますからね。
女同士は立場や環境が変わると自然と疎遠になるからね。。。今後どうなってくのか楽しみです!