女たちの選択~その後の人生~ Vol.5

25歳でまさかの解雇通告を受けた東大卒の女が一変、“教育ママ”と化した理由

「…ひどい女だと思われるでしょうが」と前置きをした上で、佳代は本音を語り始めた。

「私、妊娠がわかって呆然としたんです。正直、まったく望んでいなかった。前職は解雇されてしまい同業に復帰するのは難しいかもしれないけど、それでも何かしら仕事をして、再びキャリアを築いていくことしか私の頭にはなかったから」

しかし現実問題、佳代は妊娠した。

毅に相談すると、彼は驚きはしたものの一切の迷いなく「結婚しよう」と言ってくれた。

「結局…私は毅と結婚しました。お互いの両親や毅の意向もあって半ば渋々、専業主婦になったんです。だけど不思議なものですね。お腹が少しずつ大きくなり、胎動を感じるようになったら急に…母性が溢れてくるというか。

仕事で認められたいという承認欲求がすーっと消え、愛しい命を守ることこそが自分の使命なんだと思うようになったんです」

…ところがそれから8年経ち、33歳となった今。

佳代の中で再び、承認欲求がムクムクと顔をのぞかせるようになってしまったという。

息子を、スーパーエリートにしてみます


「このくらいの歳になると、かつての同級生たちも組織の中でそれなりに出世し始めたりするわけです。特に、独身を貫きキャリア街道をひた走ってきた女友達が活躍していたり、DINKSの同級生が起業して成功し、メディアに取り上げられているのを目にしたりすると…なんとも言えない焦燥を感じてしまって」

−私だって、ただの主婦じゃない。社会に出れば、その辺の男なんかよりずっと稼ぐ力のある才女なのよ…!

同級生たちのSNSを眺めるとき、佳代は心の中でそんな風に叫んでしまうという。

「自分も何かビジネスを始めてみようかと考えたこともあります。でも…子どもが大きくなればなったで、今度は教育に手がかかる。私、どちらも中途半端になるようなことだけはしたくないんです。…それで、覚悟を決めることにしました」

すでに飲み終えたブラックコーヒーのカップを、強く握りしめる佳代。そしてまっすぐに前を見据えると、低く唸るような声でこう宣言するのだった。

「私、息子をスーパーエリートにしてみせます」

佳代は愛息をインターナショナルスクールに通わせている。

「日本の義務教育は、ひと昔どころかふた昔も前のままでしょう。平均点の子どもを量産するシステムなんて、これからの時代にまったくそぐわないのに。息子には、イノベーションを起こせる一握りの人材になってもらいたい。そのために才能を見極め、最適な環境を整えてあげることこそが親の役目だと思うんです」

子どもの教育について語る佳代の語気は荒い。

自分には能力がある。勉強も仕事も、これまでにできなかったことなどない。子育てだって、きっと同じはずだ−。

子どもの教育に全身全霊をかける佳代。

凛としたその強気な横顔からは、そんな心の声が漏れ聞こえるようだった。


▶NEXT:8月10日 土曜更新予定
「結婚だけが、女の幸せじゃない」29歳女の決断

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