SPECIAL TALK Vol.58

~自分のなかの「やりたい」に正直に生きる。それが“新しい”を作る原動力になる~

金丸恭文氏 フューチャー株式会社 代表取締役会長兼社長

大阪府生まれ、鹿児島県育ち。神戸大学工学部卒業。1989年起業、代表取締役就任。

やりたい仕事を突き詰めて、ウォンテッドリーを生み出す

金丸:漫画家という夢を諦めたあとは、どうしたんですか?

仲:漫画を描いたことで、新たな発見がありました。それは、世の中に漫画を描いている人はたくさんいるのに、日の目を見る作品はほんの一握りだということ。その裏には膨大な量のボツ原稿があるわけです。だったら、そのボツ原稿を投稿できるサイトがあってもいいんじゃないかと考えました。

金丸:経験を生かして、新たなウェブサービスを作ろうと。

仲:ええ。ただし、あくまでも趣味のつもりでした。というのも、私たちの世代にとって、ネットビジネスは「怪しい」とか「ブラック」というイメージが強くて、ビジネスにしようとは考えてもいませんでした。そんななか、たまたま北海道で、投資家向けのプレゼンイベントがあると知り、ボツ漫画の投稿サイトのアイデアを聞いてもらいたくて、参加することにしたんです。

金丸:結果はどうでしたか? 見事、投資を勝ち取りました?

仲:それが、まだサイトができ上がっていなかったので、参加を断られました(笑)。でも「英語が話せるなら、通訳はどう?」と誘われ、通訳ボランティアとして参加しました。そこで出会ったのが、日本でサービス立ち上げの準備をしていた、フェイスブックジャパンの代表です。その後、英語力を買われて入社することに。それが2010年です。

金丸:英語がものすごい武器になっていますね。

仲:ニュージーランドで真面目に勉強しといてよかったです。当時のフェイスブックは、私を含めて6人という小所帯でしたが、ベンチャー企業のやり方やスピードを体感できたことは、非常にありがたかったですね。新しいアイデアはすぐにサービスに反映させ、ユーザーの反応を見て、すぐに改良していく。

金丸:ゴールドマン・サックスでも、一人で漫画を描いていても味わえない体験です。

仲:本当に。その頃はミクシィの勢いが凄くて、フェイスブックは無名に近い存在でした。でもある日、駅の改札で、飲み会帰りの男女のグループが、「じゃあ、写真はフェイスブックに上げておくね」と言っているのを聞いて、鳥肌が立つほど嬉しかったのを覚えています。同時に、やっぱり自分でも何かサービスを立ち上げたいという気持ちが強くなっていきました。もともと自分で何かをやりたいとは伝えていたので、入社して半年ほどで独立したんです。

金丸:いよいよウォンテッドリーにつながるわけですか。

仲:はい。マーク・ザッカーバーグは同い年ですし、私もSNS系のサービスを作りたいと思っていたので、はじめはネット上でいろいろな質問ができるQ&Aサービスを考えていたんですが、何でも質問できると逆に何を質問したらいいかがわからない。だから徐々にジャンルを絞っていき、最終的に「人」に特化するという答えにたどり着きました。

金丸:そして試行錯誤を経て、今のサービスのかたちに落ち着いたんですね。起業して何年ですか?

仲:2011年に起業して、サービスをリリースしたのが2012年ですから、8年目です。

金丸:2017年には、東証マザーズに新規上場も果たしています。まだまだ世間では珍しい女性起業家、しかも新規上場達成ということで、何か心境に変化はありましたか?

仲:それがとくにないんですよ(笑)。まだまだビジョンの1%しか達成できていないと思っているので、継続的にコツコツとよいモノづくりをしていければと思っています。

金丸:健全ですね。上場はゴールではありません。世の中に欲しいと思ったサービスを一生懸命育ててきた結果であり、単なる通過点ですから。

自信と強い気持ちがあるなら、恐れずに挑戦するべき

金丸:さて、世界ではイノベーション競争が繰り広げられていますが、日本はまだまだ保守的な社会だと言わざるを得ません。保守的な考えの持ち主が多い社会は、どんどん劣後していきます。仲さんのようなリスクテイカーがたくさんいて、たとえ失敗したとしても、それが勲章になるような社会を作っていかないといけません。

仲:本当にそう思います。私は海外の起業家と交流する機会が多いのですが、カンファレンスなどで「保守的な日本社会のなかで、よく頑張れたね」と言われることがあります。日本で暮らしていると、自分の周りのコミュニティがそれほど保守的だとは感じませんが、海外の起業家と比べると、やはり全然レベルが違うんですよね。

金丸:仲さんはこれまでの人生で「この方向でいいのかな」と迷ったとき、大胆な決断を何度も下していますよね。読者のなかにも人生について悩んでいる人は、たくさんいると思います。最後に何かアドバイスをいただけますか?

仲:毛沢東の言葉に「人が何かを成すためには、無名であること、若くあること、貧乏であることが必要だ」とあります。自身を振り返ってみても、学生時代に失敗し、失うものがないからこそ挑戦することができました。この言葉には本当に共感を覚えます。

金丸:確かに守るべきものがあると、ますます保守的になりがちです。

仲:だから自信がある人は、あまり長いこと悩まずに、どんどん挑戦してみるのがいいと思います。たとえ失敗したって、自分の肥やしになりますから。気負わずチャレンジしてほしいです。ただ一方で、最近は「起業しろ」みたいな圧を感じることも多くなりました。そんな圧に流されすぎることも問題かなと。

金丸:流されてなんとなく起業しても、うまくはいきませんよね。

仲:社会にはいろいろな人がいて、それぞれ役割があります。よく言われるのが、アリの例。働き者のアリと普通のアリ、怠け者のアリがそれぞれ20%、60%、20%いて、そのうち働き者のアリをほかの場所に移すと、残った80%のアリのなかで、また働き者20%、普通60%、怠け者20%に再編されるという。

金丸:面白いですよね。世の中ってよくできています(笑)。

仲:だから、全員が全員起業しなくてもいい。普通に就職するのだって、自分に合っていればそれでいいんだと思います。

金丸:仲さんはいつも自然体です。無理をせずに、自分らしく生きる。そのために、必要ならば挑戦もいとわない。そんな生き方をもっと多くの人ができる社会になれば、きっと日本は変わるでしょう。今日は本当にありがとうございました。

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