2019.07.20
SPECIAL TALK Vol.58大学で起業を経験するも挫折を味わう
金丸:高校を卒業して、日本に戻ってきたあとはどうしたのですか?
仲:京都大学の経済学部に進学しました。
金丸:今度は京都ですか! なぜ京都大学に?
仲:はじめから「京都大学に行きたい!」と思っていたわけではなく、経営が学べるところで、学費が安くて、なるべく良い大学を探していたら、自ずと京都大学に。
金丸:では、なぜ経営を学びたいと思ったのですか?
仲:それは『金持ち父さん 貧乏父さん』という本を読んだのがきっかけです。経営やビジネスにすごく興味を持ちました。
金丸:あの本は流行りましたよね。懐かしい。
仲:読み終えたときは、目からウロコでしたね。本に出てくる「貧乏父さん」は高学歴で頭もよくて官僚だけど、ファイナンスには疎い。まさにうちの両親に近くて、「お金のことはよくわからない」という感じで。
金丸:高学歴だからといって、家計が豊かとは限りませんから。
仲:そうなんですよ。だから、私がどうにかしなきゃと思って。勝手な正義感ですけど。
金丸:日本は必ずしも学歴と収入が一致しない、特殊な国だと思います。というのも高学歴の人たちは、安定を求めてリスクを取らない。その結果、そこそこの給料しか得られなくても、そこに安住してしまっています。一方、アメリカは、高学歴で優秀な人ほどリスクを取って起業する。この差が国力を大きく左右しているんです。ところで、京都生活はいかがでしたか?
仲:楽しかったですよ。アルバイトもいろいろと経験しましたね。うちの両親はお金に関しては厳しく、「自立と自由はセット」という考え方でした。つまり金銭的に自立できたら、あとは自由にしていい、ということだったので、少しでも稼ぎたくて、アルバイトに精を出していました。
金丸:聞けば聞くほど、子どもの成長を促してくれる親御さんですね。子どもとしてというより、ひとりの人間として大切にしているというのが伝わってきます。マイペースながらも、本当に大切な、基礎的なキーワードは教えてくれているし、自由にもさせてくれている。
仲:今振り返ると、「早く自立したい」という気持ちを芽生えさせるような育て方だったと思います。
金丸:アルバイトはどんなことを?
仲:最初の半年くらいは、居酒屋でホール係をしていました。でも、どんな仕事をしたかではなく、何時間働いたかに対してお金が支払われることに違和感があり、時間の切り売りはよくない、もっと違う働き方をしたいと思うようになって。ちょうどその頃、フリーペーパーが流行っていたので、京大内でフリーペーパーを創刊し、軌道にのせました。創刊号から15万円くらい稼げたので、「収益はこうやって作っていくのか」と学ぶこともできました。今でも続いている『Chot Better』という雑誌なんですが、その実績を元に、ある制作会社に「私を月10万円で雇ってください!成果は出しますから」と直談判したんです。
金丸:仲さん、攻めますね!
仲:ゼロからイチを生み出す自信はあったので。制作会社では自分で企画して取材し、コンテンツを作るのはもちろん、営業もしたし、スポンサーも取ってきました。
金丸:アルバイトという実践を通して、経営を学んでいったのですね。
仲:いろいろな会社から仕事をいただけるようになり、最後は起業しましたが、これはうまくいきませんでした。
金丸:起業したのは、やはりフリーペーパーですか?
仲:はい、最終的にはフリーペーパーやホームページの制作請負です。いけるんじゃないかと思ったんですけど、受託制作することに終始してしまって……。
金丸:それだと、わざわざ起業した意味がありませんよね。
仲:おっしゃるとおりです。アルバイトとさほど変わらなくて、結局、空中分解してしまいました。
金丸:そうでしたか。でも、若い頃に適度な失敗を経験するのは、すごくいいことですよ。失敗した経験が、将来の成功につながります。
仲:当時、かなり長い時間をかけて、仲間と一緒にいろいろなビジネスモデルを考えましたが、議論するだけで満足してしまい、何もアウトプットがない。たとえば大学の英語の先生と一緒にTOEICのアプリを作ったり、フェイスブックの京大版のようなものを作ってみたりしたんですが、プロトタイプまではできても、どれも最後までやり通すことができなくて。会社というより、起業研究会のような感じで終ってしまいましたね。
金丸:学生時代はどんどん挑戦するべきです。たとえ失敗しても、規模が規模だから多額の借金を背負うこともない。小さなリスクに慣れておかないと、大きなリスクを取って挑戦するなんて無理ですからね。
外資系金融から一転。ひたすら漫画を描く生活に
金丸:就職活動はどうでしたか?
仲:最初は学生にありがちなクリエイティブ系を目指していました。日本の未来はコンテンツ産業にあると思っていたので、制作会社を受けてみようと思ったのですが、体力も凄く必要そうだし下積みは長い。どうしようかなと悩みながら、いろいろな企業のインターンを受けているうちに、ゴールドマン・サックスから内定をいただいて。
金丸:優秀ですねえ。
仲:凄く優秀な方ばかりが働いていて、そんな環境で成長できればと決めました。
金丸:もう一度起業することは、考えてなかったんですか?
仲:そのときは、なかったですね。学生時代に起業して思ったのは、私は人を率いるのがそんなに得意じゃない、ということでしたし。
金丸:いまや上場企業の社長だというのに(笑)。
仲:「やる気のない人に直接働きかけてモチベートする」ことが、苦手なんですよ。「自分でやりたいと思ったんだから、セルフモチベートして頑張ってよ」みたいに思ってしまうタイプで。モチベーションの安定したレベルの高いプロフェッショナルだけと、ピュアに「コト」だけに向かう働き方をしたい、というか。
金丸:なるほど。
仲:だから、手に職をつけるというか、スペシャリストを目指したほうが自己完結できて、自分に向いていると考えたんです。ゴールドマン・サックスでは、日本株を海外のファンドマネジャーに売り込む仕事をしていましたが、新人なので大企業の歯車の小さな一つでしかなく、学生時代に経験した、自分たちでやるビジネスの楽しさは正直感じられませんでした。そんなときにリーマンショックが起き、景色が一変しました。尊敬している優秀な先輩がどんどん辞めることになり、自分もやっぱり辞めようと決めました。結局、在籍していたのは2年弱ですね。そして、漫画家を目指すことに。
金丸:ついにきましたね(笑)。いったいどうして漫画家を?
仲:絵を描くのが好きだから、それを生かして一人で完結できる仕事となれば、漫画家だと。それまでの人生経験で、むちゃくちゃ努力すれば何でも叶うと思っていたので、まずは集中して漫画を描きまくるべきだと腹をくくりました。それで、友達がたくさんいる東京を離れて、北海道に赴任していた母のマンションに転がり込んだんです。
金丸:お母様も驚いたでしょう。
仲:そうですね。北海道での8ヵ月間は、部屋に引きこもって朝から晩までずっと漫画を描いていました。下書きを含めれば50作品ぐらい、賞にも応募しました。ただ漫画って、普通は原稿を出版社に持ち込み、編集者からフィードバックをもらって改善していくという流れなんですが、私の場合、東京にいなかったので原稿を持ち込む出版社がなくて。
金丸:集中しようと引っ越したのが、裏目に出たと?
仲:フィードバックがないまま描き続けたので、だんだん迷走してしまって。結局「これだけやっても芽が出ないなら、しょうがない」と漫画家の道を諦めました。でもやれるだけのことはやった自負があるので、後悔はまったくありません。
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