大学4年になった4月初旬、英理佳は葵と沙耶とともに、カフェでおしゃべりに興じていた。
葵も沙耶も、似たような家庭環境で育ってきた友人である。
女性らしいスタイルと妖艶な雰囲気を持つ英理佳、長身で正統派美人の葵、華奢で可愛らしい沙耶。
タイプは違えど、3人のルックスは学内でもひときわ目立つ。加えて、裕福な家庭で大切に育てられた娘特有の余裕と気品があり、3人集まるとまさに“向かうところ敵なし”。
そんな3人の最近の話題はもっぱら、就職活動の状況である。1番しっかり者の葵が、口火を切った。
「就活解禁から1カ月たったねー。最近どう?英理佳はすでに選考受けてるんだっけ?」
「うん。私ね、4社しかES出さなくて、その全てが今1次面接なのよ」
すると葵は、驚いた様子でこちらを見つめてくる。
「えっ……!?4社だけ?少なくない?大丈夫なの?」
驚くのも無理はない、就活生の平均ES提出数は20社と言われている中で、英理佳はその5分の1だった。
よほど優秀で自信があるか、就活に対してモチベーションがないか…そう思われるようだが、しかしそのどちらでもない。
何故なら、英理佳には“駐在妻になる”というはっきりとした目標がある。しかし、自分が駐在を狙うのではなく、「駐在妻」が目標となると、そんなポジションを用意している会社などもちろん無い。
よって英理佳が行きついた就活の軸は、こうだった。
「女性として花形で、出会いが多そうな職業。それも将来海外駐在になる人たちとの」
自分として叶えたい夢などはないため、表向きは、就活生としてモチベーションが低く見えるかもしれない。だが内心は誰よりも明確な目標を持っていたのだ。
―今の生活レベルを下げない経済力はもちろん、海外駐在は絶対。それを叶えてくれる男性と出会える確率が高い会社に就職するわ。
しかしそこまでの本音を、もちろん2人に話したことはない。すると沙耶が興味津々、といった様子で尋ねてきた。
「ねえ、英理佳ってその4社はどこの会社を受けているの?」
「CAと自動車メーカーのイベントコンパニオンだよ。たくさんの人と関わる仕事がしたくて」
「出会いが多そう」という判断のもとで、選考を進めているのは、日系大手航空会社の客室乗務職と、日系自動車メーカーの受付嬢(イベントコンパニオン)。
卒業した先輩で、客室乗務員となった人から、「毎週、商社マンと合コンで忙しい」と聞いていたし、何より、幼い頃から海外に住んでいた英理佳にとって、英語を活かせる客室乗務職という仕事は丁度よかったのである。
だが大手2社だけエントリーして終わる勇気はなかったので、ついでに自動車メーカーの受付嬢も応募した。
◆
予想通り、英理佳は、順調に各社の一次面接を突破した。
4月末には、航空会社2社とも二次面接を実施した。CAの二次面接では、英語での質問もされる。一緒に面接に臨んだ受験者が言葉に詰まる中、英理佳は淀みなく受け答えできた。
受け答え、ルックス、経歴…。どれをとっても、英理佳は他の誰よりもズバ抜けていたはずだ。
―面接で一緒だった子たち、質問に対して会話になっていないこと答えていたわ。絶対に今回もいけた、最終面接の準備をしなきゃ。
面接の帰り道、そんなことを考えていた。
だが3日後、マイページ上には予想外のメッセージが届いていたのである。
この記事へのコメント
成城大学でも、美人で育ちが良ければ、
就活はイージーモードなのかな、、、
時はバブル真っ最中!大手損保会社に入社しましたが、なんと前年まで四大卒女子の採用はありませんでした。短大卒か高卒、しかも縁故採用です。
唯一、出身大学のOG訪問しても「私、縁故だから面接とかよくわからないの」と言われて、仕方なくOB訪問に切り替えました。
でも職種が違うから、結局、ランチご馳走になって終わり、みたいな日々でした。
学歴フィルターを通過出来る学校であれば、ほと...続きを見るんどの大手企業から内定もらえる時代でした。
国が「男女雇用機会均等法」を実施したばかりだから、大手企業なら国の号令に逆らえなかったんですね。
だから、エントリーシートだの、企業研究だのと、
今の若い人たちはすごいなぁ!とオバサン、心から感心しています。
楽しみー