女たちの選択~その後の人生~ Vol.3

第一子出産後、まさかの「産後鬱」に陥った33歳・美人妻の葛藤

1時間でいいから、寝かせて...


「たぶん私は、出産で躓いたんです。予想外の難産で2日間苦しんだ末の帝王切開で息子を産んだのですが、産後の状態が最悪で...。出産は“産みの苦しみ”がよく語られますが、産後も辛いんです。ホルモンバランスが乱れて、身体はボロボロでした」

由里子は小さく溜息をつく。

「赤ちゃんに会えた瞬間は、確かに嬉しかったです。でもそれより、帝王切開の傷が本当に痛かった」

そして、その状態で壮絶な新生児の子育てがスタートした。

由里子は出産後、自力でベッドの上で起き上がれるようになるのに3日、直立である程度の距離を歩けるようになるまで1ヶ月かかったという。

「入院中から母子同室で母乳育児を強いられるのは、想像以上に大変でした。無責任に聞こえると思いますが、自分の身体がボロボロ過ぎて、赤ちゃんどころじゃないんですよ。とにかく辛い」

由里子が出産したのは“スパルタ”で有名な都心の産院だが、よっぽどのことがなければ赤ちゃんを預かってもらえなかった。

体力の限界、睡眠不足の限界は、日々更新されていく。

最後には助産師に泣きつき、1時間でいいから寝かせて欲しいと懇願したという。

「可愛い子供と一緒にいたいはずなのに…。そんな気持ちが、湧かなかったんです」

泣き止まない我が子に襲った感情


「よく新米ママが“さっそく寝不足ですが、可愛いので頑張れます”なんてInstagramに投稿しているのを見かけませんか?私も当然そうあるべきなのに、全くそんな気持ちになれないと気づいた時は愕然としました」

—私には、母性がない...?

由里子はそんな自分に戸惑いながらも、休む間もなく育児に没頭するしか道はなかった。

「私は盛岡出身なのですが、単純に田舎に籠るのが嫌で、里帰りもしませんでした。それでさらに状況は悪化したように思います。子育てを完全に甘く見てました」

聞くところによると、由里子はこれまで、なかなか要領の良い人生を送ってきたようだ。

大手損保会社への就職、外資系IT企業に勤める夫と適齢期での結婚、神楽坂の新築マンションの購入、夫の昇進をきっかけに専業主婦となり、そして妊娠...。

挫折を知らなかった彼女に、子育てのストレスは容赦なく降りかかったようだ。

「うちの子は、とにかく1日中よく泣くんです。おっぱいをあげてもオムツを換えても、抱っこしても、何をしても原因不明のギャン泣きが何時間も続く。なんで?どうして泣き止まないの?って、何度一緒になってワンワン泣いたか...」

子育てが大変だなんて、もちろん覚悟していた。だが、ここまで大変だとは思わなかったのだ。

泣いてばかりの赤ちゃんとマンションの一室で24時間際限なく過ごす日々は、徐々に由里子の精神を蝕んでいく。

そして、とうとう事件は起きた。

「ある日、激しく泣き叫んで暴れる息子を1時間ほど抱っこし続けてました。もう身体中の関節が痛くて、子守唄を歌う声も枯れて、それで......

ハッと気づいたとき、私はまだ2ヶ月の小さな息子に向かって、手を上げそうになっていたんです......」

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