ブラックタワー Vol.8

「夫にまた手を出したら、二度と容赦しない…」。愛した男の妻から呼び出され、窮地に立たされた女

ーまるでお城みたいに、高くて真っ白な塔。私もあそこの住人の、一人になれたなら…。

ずっと遠くから眺めていた、憧れのタワーマンション。柏原奈月・32歳は、ついに念願叶ってそこに住むこととなった。

空に手が届きそうなマイホームで、夫・宏太と二人、幸せな生活を築くはずだったのに。

美しく白い塔の中には、外からは決してわからない複雑な人間関係と、彼らの真っ黒な感情が渦巻いていたー。

憧れのタワマン暮らしを始めた奈月だったが、元不倫相手が同じマンションに住んでいることに加え、差出人不明の黒い手紙犯人が隣人だと判明し驚きを隠せない。更に、突然元不倫相手の妻から呼び出され…


「お忙しいところ、突然お呼び立てして、申し訳ありません。」

最上階の美しき女帝は、堂々たる態度で奈月の目を見つめる。

喫茶店の一番奥で、奈月は永田の妻と向き合っていた。横に座る永田は、いつになく居心地が悪そうで、奈月にチラリと目をやるが、すぐに顔を伏せてしまった。

「いえ。あの…何か、あったんでしょうか。」

10分ほど前、永田夫人からインターフォン越しに呼び出された奈月は、震える手で鍵だけを掴み、家を出てきたのだ。

居留守を使えばよかったと、地上に向かうエレベーターの中で何度も後悔した。けれど、どのような要件だとしても、夫が家にいる時にチャイムを鳴らされるよりはマシだと思い直した。

1階で待ち構えていた永田夫人は、場所を移して話したいことがあるとだけ告げると、スタスタと一人エントランスを出て行ってしまう。

恭しく頭を下げるコンシェルジュを横目に、夫人の後を永田と奈月がびくびくしながら着いて行き、近所の喫茶店にやってきたのだった。

「主人は、何かの間違いだろうと言うのですが…うちのポストに、こんなものが入っていたものですから。」

戸惑う奈月に向かって、永田夫人が差し出したのは、白い封筒だ。表に永田志帆様と書かれているのを見て、奈月は初めて夫人の名前を知った。

「あ…あの…」

「どうぞ、ご覧になって。」

永田夫人の言葉に、奈月は震える手で封筒を開ける。

ーちょっと、なにコレ…。

封筒の中にあったのは、一枚の写真。

そこには、黒い車を背景に、笑顔の永田と、俯き加減の奈月が写っていたのだ。

それは紛れもなく、数日前、近所で永田から呼び止められたときの様子を捉えた写真であった。

【ブラックタワー】の記事一覧

もどる
すすむ

おすすめ記事

もどる
すすむ

東京カレンダーショッピング

もどる
すすむ

ロングヒット記事

もどる
すすむ
Appstore logo Googleplay logo