2019.03.18
サヨナラH Vol.14年ぶりの一人暮らしは、最初はやっぱり寂しく思う時もあって、そんな時に私は、LINEの「友だち」に入っている「あ行」の人たちから男女問わず誘いまくるようにして食事に行き、一人になる時間をなるべく減らすようにした。
誘いやすい友人たちを一巡した頃にはすっかり一人暮らしの快適さを思い出し、簡単なおつまみを準備してNetflixやAmazonプライムで映画を観ながら、厳選したワインを1本空けるのが週末の楽しみになっていた。
私は、数シーズンにわたって何十話も続くような海外ドラマを見続けることができない性分だから、とにかく映画をたくさん観た。
洋画も邦画も、新しいものから古い作品まで。とにかく家で持て余した時間を埋めたかったのかもしれない。
よく、懐かしい音楽を聴くと、その当時の思い出が蘇るというけど、それは映画も同じだった。
ある映画を観て、私は自分の人生が後悔ばかりのように思えてしまったのだ。
それは、生暖かい雨が降る土曜の夜だった。
◆
朝から続いた雨のせいで出かけるのも億劫になり、Uber Eatsで頼んだ大盛りのサラダと週末用に買っていた白ワインを準備して、テレビの前に座った時。画面上にずらりと並ぶタイトルの中から、タイタニックが目に入ってきた。
いつもだったら2時間半を超える映画にはなかなか手が出ないから、3時間以上もあるタイタニックは選ばないのに、いつも以上に時間を持て余していた私は、この映画を選んだ。
タイタニックは、平成に公開された映画の中で、千と千尋の神隠しに次いで2番目の興行収入だと聞いたことがある。
映画が公開されたのは、1997年の12月。多くの人と同じように、私も映画館に観に行った。
高校生だった私は、当時付き合って間もなかった洋平と、緊張しながら並んでスクリーンに向かっていたことを、今でも鮮明に覚えている。
当時、全席指定じゃなかった映画館には通路に座って観ている人も沢山いて、私たちは座れるよう1回飛ばして、次の回の列にずっと並んだ。あの頃は他愛もない話で、何時間でも喋っていられた。
洋平のコートのポケットには、500mlの飲み物が左右1本ずつ入っていて、お腹のあたりが不自然に膨らんでいる姿がとても面白くて、私は何度も笑っていた。
洋平のコーラと、私のカルピス。
高校生の私たちには映画館の飲み物は高くて買えなかったから、近くの自動販売機で買っておいたものをこっそり忍ばせていたのだ。
それから22年後の今。神楽坂の部屋にある40インチのテレビでタイタニックを観ながら、私は洋平のことを思い出しているのだから不思議だ。
洋平とは名古屋の高校生だった時から付き合い始めたが、大学進学に合わせて私は東京に来て、彼は京都へ行ってしまった。
遠距離になっても私たちの付き合いは続いていたけれど、まだ10代だった二人にとって、東京と京都というのは、果てしなく遠い場所だった。
大学1年生の夏休みに名古屋で会ったのを最後に、洋平との関係は終わりを迎えた。
「大学を卒業したら、結婚しようね」
本気でそんな会話をしていたのに、時間と距離を乗り越えられず、私は東京の部屋で一人、何度も泣いた。
それでも、1年も経つと私はすっかり東京に馴染んでいて、美人と評判の友人に誘われては社会人との食事会に頻繁に顔を出すようになっていた。
最初は怖々と参加していた食事会だったけれど、どんな対応をしていれば男の人が喜ぶのかも、すぐに覚えた。
人が易きに流れるのは簡単で、東京の少し特殊な文化に馴染むのもあっという間だった。
バブルの時代に四大卒女子は金融機関に就職した人が多く、私の周りも銀行、證券、生保、損保、と日本の代表的な企業にこぞって就職した。私もその1人。まさか「銀行が倒産する」時代がやってくるとは夢にも思わなかった。
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