ついに爆発する、優介への怒り。
ーね、今からそっちに行っていいかな?最近会えてないし、唯子のメシ食いたい。
二次会もお開きに近づいた頃。高いヒールで疲弊している私の元に、優介からののんびりとしたLINEが入った。
−こんな時間にご飯食べたいだなんて、一体何考えてんのよ−
私の脳裏には、たった今見てきたばかりの真美の幸せそうな花嫁姿がチラついていた。
八つ当たりだって分かっている。けれど、今夜はどうしても優介に優しくできない。
既読スルーしていたら、5分もしないうちに電話がかかってきた。仕方なく応答する。しかし相変わらず呑気な口調についカッとなってしまった。
「ごめん、今夜は夜食とか作れる気分じゃないから。優介って、ホント自分のことしか考えてないよね」
それだけ言うと、返事も聞かずに通話を終了した。
...本当に、優介は自分のことしか考えていない。私の年齢とか、結婚したい気持ちだって、分かっているくせに無視しているのだ。
今夜はもう、何もかもから逃げ出したい。
1年も付き合っているのに結婚したいとも言わず、夜食だけ食べに来たいという男から。そんな男の愛にしがみついている自分、そして友人の結婚を素直に喜べない自分からもー。
所詮、優介は私のことを見くびっているのだろう。私のような女など、掃いて捨てるほどいるとすら思っているかもしれない。
なぜ自分は1年もの間、そのことに気がつかなかったのだろう。何もかもが急にバカバカしく思え、私はなおも電話をかけてくる優介をブロックすることにした。もちろん、別れる覚悟で。
全てをリセットし、一からやり直すつもりだった。
だがその翌日。事態は思いもよらぬ方向に動いたのだ。
男に結婚を決意させる、たった一つの方法
翌日、出勤を終えて帰宅した私の目に飛び込んできたのは、信じがたい光景だった。
...なんとマンションの入り口に、気まずそうに佇む優介がいるのだ。
「え…優介なに、どうしたの?」
すると戸惑う私に、優介はいつになく真剣な表情で語り出した。
「唯子、ごめん。俺、今まで唯子に甘えすぎてた。たしかに自分の都合ばっかでさ、最低だよ」
その声は少しばかり震え、その目には、どうか私に受け入れてもらいたいという必死さが浮かんでいる。
「今さらそんなこと言われても…」
...どうしたらいいのだろう。私はもう、優介に哀れな期待をするのはやめたのだ。プロポーズをしてくれない男とは、もう一緒にいられない。
しかし心を閉ざしたままの私に、優介はついにそれを口にしたのだ。
「俺、ちゃんとするから。唯子にキッパリと言われて気付いたんだよ。俺、唯子がいないとダメだ。結婚しよう」
そう言って、目の前の男は私をギュッと抱きすくめた。
その瞬間...確かに甘やかな喜びが身体中を駆け巡った。しかし同時に、どこか冷静な自分もいた。
私はずっと結婚できないことにコンプレックスを抱いてきた。なぜこんなにも努力している自分が選ばれないのかと、悶々とした日々を過ごしてきたのだ。
そして自分はたったいま、優介からずっと待ち望んでいたプロポーズをされた。しかし昨日までの自分と今日の自分は、何も変わっていない。見た目も性格も、ましてや人間的な魅力もなにもかも同じはずだ。
つまり今夜のプロポーズは、男が危機感から焦って口にしただけ。私に連絡を絶たれた優介が、「この女を自分のものにしなくては」と思っただけのこと。
それに気がついたら、私はなんだか急にスーッと熱が冷めてしまったのだ。
プロポーズって、こんな駆け引きで手に入るものだったのか。妻になれるかなれないかって、男の危機感を煽れるかどうかってだけの話だったのか。私の女としての価値云々とは、まるで関係ないんじゃない。
しばしの沈黙の後、私は自分でもびっくりするほど冷静に、優介に対し「考えさせて」と答えていた。
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この記事へのコメント
夜食食べに行きたいって突然言い出すのもだけど、LINEに返信がないからって電話してくるのにイラっとしてしまった…。
相手の状況考えられないのかな?