2019.02.23
Who? Vol.5—この男は、誰だ?—
明晰な頭脳と甘いマスク、輝かしい経歴を武器に、一躍スターダムにのし上がった男がいる。
誰もが彼を羨み、尊敬の念さえ抱いていた。
だがもしも、彼の全てが「嘘」だったとしたら?
過去を捨て、名前を変え、経歴を変え、顔を変えて別人になり、イケメンジャーナリストとしての地位を手に入れた、レオナルド・ジェファーソン・毛利。通称『レオ』。
レオが、まだ本名の「力石優也」だった15年前。
ラジオ局で働くという夢を叶えた優也は、深い思いもなく“最初の嘘”をついてしまう。
人生がうまく回り始めたと思っていた矢先、父親の借金を肩代わりするよう強要されてしまう。徐々に人生の歯車が狂い始め失意の底にいた時、芸能界で「女帝」と言われる女が優也の前に表れ…。
『人は運命を避けようととった道で、しばしば運命に出会う:ジャン・ド・ラ・フォンテーヌ』
―どうして、僕の家が…分かったんですか?
そう聞こうとして、やめた。というより、無駄に思えた。一条さんがその気になれば、僕を調べ上げることなんてきっとたわいもないことだろうから。
「あなたの部屋を見てみたい気もするけど…」
一条さんは僕のアパートをチラリと見上げた。
「あそこじゃ、秘密の話ができそうにないわ。壁、薄そうだから。乗ってくれる?」
そう言って、一条さんが笑って僕に手招きしたタイミングで、運転手が後部座席の扉を開けると、彼女は振り返りもせずに乗りこんだ。僕が断ることなんて、考えてもいないのだろう。
一条さんと、電話をかけてきた金貸しの男。どちらも得体が知れないのに、顔が分かるだけまだ一条さんの方がマシな気がした。むしろ今、部屋で一人にならずにすんだことにホッとすらして、僕は車に乗った。
音も立てずに静かにドアが閉められると、“高級車”としか言いようがない質感の車内に、いたたまれず緊張してしまう。
嗅ぎ覚えのある甘ったるい香りが充満しているのは、一条さんがずっと乗っているせいなのかもしれない。ただ、一条さんが好むには、この車はちょっとゴツくて男性的だと思った。
ー トヨタ、センチュリー、だっけな。
このクルマの象徴は、日本の誇りを表す『鳳凰』。首相や上級官僚の公用車に使われることが多い車だ。
高級車やスポーツカーというものに憧れて雑誌を愛読してきた僕には、この車の魅力がわかる。だけど一条さんなら、もっと華やかで派手な車を選びそうなのに。
「古い車でしょ」
僕が車内を見渡していたのに気がついたのか、そう言った彼女と、僕は目を合わせた。
「私の趣味じゃないのよ。父がね、お世話になった方から払い下げてもらった車で、もとは公用車らしいんだけど。遺言で、私に譲るって。
これが社長の車だ、って書き残されちゃって。周りの目もあるから仕方なく乗ってるの。
生きてる時から、私の趣味や意見はおかまいなしで、自分の理想を押し付ける人だったけど、そのままいなくなっちゃった。トラブルだけ残してね…お互い、父親には苦労するわね」
最後の言葉に、いやに含みを持たせた一条さんが微笑んでいた。
「…僕は…」
答えかけて、ハッとした。彼女はなぜ…今日、よりにもよって僕に4,500万円の電話がかかってきた今夜、こんなに遅い時間に僕のところに来たのだろう。
「…もしかして…今日の…父の借金のことも知ってるんですか?」
「知ってるから、あなたを助けに来たんじゃない」
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