
狙った男を落とすため。4,500万を払って、絶対に誰にも秘密の計画を実行した女の、心の闇
「…助ける、って…?」
「まずは、あなたのお父さんの借金をすべて、私が返してあげる」
「すべてって…あの、父の借金は4,500万円あるんですよ?今日の電話の男が言ったのは…というか、そもそも、一条さんが僕の家のことで、あの、そんな大金を…いや、大金じゃなきゃいいってわけでもないんですけど」
わけが分からず、うまく単語を並べられなくて、ひどく支離滅裂で間抜けな返事になった。その自覚はあったが、言葉も頭の中も、どうにもまとまらない。
「今まで随分大人びて見えてたけど、あなたでも年相応のリアクションするのね。可愛いとこあるじゃない」
“可愛い”という言葉にカッとし、僕はつい、言葉を強めてしまう。
「バカにするのも、からかうのもやめてください。今日は本当に疲れてて、どうして良いか分からないんです。だから…」
「バカにしたりしてない。これは真剣な提案よ」
一条さんは僕を落ち着かせるように、僕の手に自分の手を重ねた。ひんやりとした感触に一瞬意識を奪われて、思わず顔を上げると、彼女はひどく優しい目でこちらを見つめていた。
「今日のあなたのラジオ、たまたま聞いたの。本当に魅力的な声と喋りだったわ」
「…え?」
「素晴らしい才能なのよ。やっぱりあなたの声って、天からのギフトなの。あなたを見つけれられた私は、本当にラッキー。出会わせてくれた神さまに感謝だわ」
うっとりとした顔で一条さんは続けた。
「あなたの声には、4,500万円の価値がある」
―僕の、声に…4,500万円の価値…?
「私たちは親を選べない。親はいつも、親だというだけで私たちの人生に介入して、私たちの努力を壊して、無にしてしまう。なのに親を敬うべき?大切にすべき?親の尻拭いをするべきなの?」
言葉に強さが増していくと同時に、僕の手に添えられていた一条さんの手にも力がこもり、ぎゅっと握り締められた。
「そんなのおかしいわよね。私はね、あなたに本当に同情してるの。あなたの父親は今回だけじゃなくて、きっと何度も、これからも何度もあなたの人生を無茶苦茶にするわよ。
あなたはもう十分頑張ったじゃない。家族のために家計を助けて、自分の楽しみは全て後回しにしてきた。なのに、やっと東京に出て掴みかけた夢が、またお父さんに壊されようとしているのよ。
許せるわけないでしょう?子供が親の犠牲になって良いわけはないの。
だからあなたは、もう自由になっていい。解放されるべきなの。逃げなさい、お父さんから」
「…父から…逃げる?」
思わず声が出た。そんなことができるのだろうか。いつも半ば諦めてきた。父に囚われた人生。そこから、逃げられると?
「…どうやって…」
「私が、あなたの4,500万円を即金で返す。そして金輪際あなたに連絡をよこさないように、うちの弁護士から、あなたを脅迫する男に連絡させるわ。でも…それだけじゃ不十分ね。あなたの父親みたいな人には」
ー優也を言いくるめ、手に入れたつもりの女帝。しかし優也にも思惑が…ー.....
この記事へのコメント
スターウォーズだとアナキンがダークサイドに落ちた瞬間ですよね。
泣けます😭😭
みっちゃん、みっちゃん、みっちゃん。。。