2018.12.02
無業の女王 Vol.1「電車内で痴漢トラブルに巻き込まれるなんて…悔しいわ」
「…高木先生って正義感がある方だったから…素晴らしいとは思うけど」
「逃げた犯人追いかけて…その途中で心臓発作って……無念だよなぁ」
父と付き合いのあった出版社の編集者たちが、廊下の隅で立ち話をしている。
葬儀も無事終わり、後片付けをしている最中だった。私は、彼らの前を通ることなく、そっとキッチンへと引き返した。
さすが有名人だった父らしく、報道カメラや新聞各社の取材でいっぱいの華やかな葬儀だった。
明日のニュースにはきっと「正義の作家、高木港一の半生」や「犯人を追いかけ無念の突然死」なんかが一面に踊るのだろう…。父の著作はきっと売れるだろう。そう思うと、何故か心のどこかでホッとする私がいた。
この10年、私にとって父は、生活そのものだった。
いや、もっと正直な言葉で言うと、父は私のお財布だったのだ。私の優雅な時間も、すべて、父というお財布があってのことだ。
お財布をなくした私にとって、父の財産は、私が再び優雅に過ごすために絶対に必要なアイテムであった。兄と半分にしたって何とか暮らせるはず…そう見積もっていたのに…。
「全財産の管理は、兄である高木航に一任する。そして長女、帆希には100万円だけを遺す。帆希に遺したい言葉はただ一つ…働きなさい。そして自立しなさい…とのことです」
父の顧問弁護士という男がやってきたのは、葬儀の二日後の今日。兄夫婦も同席し、父の遺言の中身というのを私と共に聞いている。
「ちょっと待ってください。こんな遺言状いつ作ってたんですか? 持病があるわけでもなかったのにわざわざどうして遺言状なんて…」
「お前が働かないで、父さんの脛、かじってたからだろ!」
兄がこんなにも声を荒げることは、今まで一度もなかった。40歳の東大卒、メガバンクで次長をしている兄は、父に似て上品で、父よりも寡黙な人だ。
そんな兄が、顔を真っ赤にして私に怒りをあらわにしているではないか。
「私は…お父さんのサポートをずっと…」
「もう何年も前から父さんには相談されてたんだ。お前の浪費癖に困ってるってな!」
ー信じられない…父が私をそんな風に思っていたなんて…。
父と娘、ふたり幸せに穏やかな時間を過ごせていた…私は、この10年、それを信じて疑わなかった。
「なぁ、帆希…いい加減…自立しろよ。もう34だぞ!これからどうすんだよ。財布くらいにしか思ってなかっただろうけど…父さんはもういないんだぞ!」
34歳、国立大卒、独身…無職……。
突然つきつけられた現実に、私は、頭が真っ白になるのだった。
▶Next:12月9日 日曜更新予定
腐れ縁の彼の家に転がり込もうとした帆希に降りかかった、更なる衝撃の事実とは!?
※本記事に掲載されている価格は、原則として消費税抜きの表示であり、記事配信時点でのものです。
説教して娘に嫌われるのが嫌だったのかもしれないけど、いきなり放り出すのは無責任。
散々甘い顔をしてきた父親にも問題があると思う。
【無業の女王】の記事一覧
2019.02.03
Vol.11
34歳になっても自立できなかった女が、誰かに寄生する日々に終止符を打とうと思えた理由とは
2019.02.02
Vol.10
「働かない」と決めた、34歳・高学歴・無職美女の行く末は?明日で最終話!「無業の女王」総集編
2019.01.27
Vol.9
黒い傘がもたらした不運。見知らぬ男から突然声をかけられ、人生初の挫折を味わった女
2019.01.20
Vol.8
初対面でいきなり頭を撫でてきた男の、底意地の悪い魂胆とは。34歳独身女がハマった罠
2019.01.13
Vol.7
あの日、あの時、あそこに行かなければ…。過去の傷を抱えた女2人の、奇妙な共同生活とは
2019.01.06
Vol.6
「僕なら裏切らない」耳心地の良い言葉を並べ、現代女性の“駆け込み寺”を作った男の正体
2018.12.30
Vol.5
初めての婚活で出会った、35歳こじらせ男との恐怖の一夜。急に態度を豹変させた、彼の正体とは
2018.12.23
Vol.4
意地でも離婚はしない。夫以外の男に縋りながら、虚しさを溜めこむ女の歪んだ愛情
2018.12.16
Vol.3
“二子玉川で1番みっともない女”に成り下がった日。それでも曲げられない、34歳・無職の主張
2018.12.09
Vol.2
働かずに生きてやる。彼に裏切られて人生最悪の日に下した、34歳・独身女の無謀な決断
おすすめ記事
2020.12.27
復讐
復讐:音信不通になって3週間。偶然街で見かけた親友の信じられない状況
2024.06.01
アオハルなんて甘すぎる
「5cmヒールで、会社からお店まではタクシーに乗って…」気合を入れた初デートで男からの思わぬ告白
2019.03.09
Who?
痴情のもつれか、それとも…?女が復讐を誓った、読んではいけない手紙に記された懺悔の言葉とは
2020.10.22
東京戦略時代
「あの子、俺のこと多分好きだな」社内評価の高い男が、恋心まで利用する理由
- PR
2025.03.24
週末ブランチは“泡酒フリーフロー”で豪快にいけ!春一番を感じられる、六本木の名門ホテルは…
- PR
2025.03.25
牛肉の本場・大阪で最高のステーキを! 極上の「アメリカンビーフ」を楽しめる珠玉の4軒
- PR
2025.03.26
春旅するなら万博でも話題の西日本へ!大人が満足する贅沢時間を過ごせるホテル4選
2018.11.03
オトナの恋愛論~宿題編~
「マメな男はモテる」は真実か?毎晩連絡を取っていたのに、2回目のデートで女が冷たくなった理由
- PR
2025.03.27
7種類ものフレーバーが楽しめる! この春、台湾生まれのフルーツビールが話題!
- PR
2025.03.28
ほろ酔い美女の正体とは!?17LIVEの人気ライバー4人を、港区のバーにお連れしてみたら…
東京カレンダーショッピング
ロングヒット記事
2025.03.19
運命なんて、今さら
初めて彼のマンションを訪れた28歳女。しかし、滞在10分で、突然「帰りたい」と思った理由
2025.03.22
男と女の答えあわせ【Q】
「豊洲に住んでいる」と33歳男が言った途端に、デート相手の女が戸惑ったワケ
2025.03.23
男と女の答えあわせ【A】
「年収800万くらいでもいいかな…」相手に求める条件を妥協したつもりの30歳女の大誤算
2025.03.17
1LDKの彼方
「何もないって言われたけど…」彼氏が他の女と連絡を取っていたことが発覚。30歳女は思わず…
2025.03.20
TOUGH COOKIES
「幸せそうな彼女がなぜ?」SNSで悪質コメントの犯人を突き止めたら、意外な人で…
この記事へのコメント