無業の女王 Vol.1

無業の女王:34歳、国立大卒、独身…家事手伝い。働かず暮らしてきた女が突然、社会に放り出された日

「電車内で痴漢トラブルに巻き込まれるなんて…悔しいわ」
「…高木先生って正義感がある方だったから…素晴らしいとは思うけど」
「逃げた犯人追いかけて…その途中で心臓発作って……無念だよなぁ」

父と付き合いのあった出版社の編集者たちが、廊下の隅で立ち話をしている。

葬儀も無事終わり、後片付けをしている最中だった。私は、彼らの前を通ることなく、そっとキッチンへと引き返した。

さすが有名人だった父らしく、報道カメラや新聞各社の取材でいっぱいの華やかな葬儀だった。

明日のニュースにはきっと「正義の作家、高木港一の半生」や「犯人を追いかけ無念の突然死」なんかが一面に踊るのだろう…。父の著作はきっと売れるだろう。そう思うと、何故か心のどこかでホッとする私がいた。

この10年、私にとって父は、生活そのものだった。

いや、もっと正直な言葉で言うと、父は私のお財布だったのだ。私の優雅な時間も、すべて、父というお財布があってのことだ。

お財布をなくした私にとって、父の財産は、私が再び優雅に過ごすために絶対に必要なアイテムであった。兄と半分にしたって何とか暮らせるはず…そう見積もっていたのに…。


「全財産の管理は、兄である高木航に一任する。そして長女、帆希には100万円だけを遺す。帆希に遺したい言葉はただ一つ…働きなさい。そして自立しなさい…とのことです」

父の顧問弁護士という男がやってきたのは、葬儀の二日後の今日。兄夫婦も同席し、父の遺言の中身というのを私と共に聞いて......


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