2018.09.13
美しいひと Vol.1恋のはじまり
恋のはじまりは、完全に一目惚れだった。
私は大学1年の夏、とあるイベントサークル主催のビーチパーティーに参加した。
ビーチパーティーなどという、どう考えても引け目しか感じない場に無謀にも参加することとなったのには、もちろん理由がある。
学内でも有数の、キラキラした一軍の男女が集まるサークルに、もちろん私は入るつもりなどなかった。
しかし語学のクラスで仲良くなった大山恵美(おおやま・えみ)から「一緒に行こうよ」「絶対楽しいよ」としきりに誘われ、渋々承諾したのである。
入学してすぐ恵美に声をかけたのは、私と同じ二軍の匂いを感じたからだ。
しかし実際に話してみると彼女は予想に反してネアカであり、キラキラサークルにも臆せず飛び込める積極性さえ持ち合わせていて驚いた。
同じように地味なルックスでも、「麗華」などと身の丈に合わない名前を付けられ、必要以上のコンプレックスを抱くことがなければ…もしかしたら私も恵美のように屈折せず生きられたのかもしれない。
「わ♡サヤカの水着、めちゃくちゃ可愛い!」
「ホント?嬉しい。ユウの水玉ビキニもすごく似合ってる」
キャピキャピと大声で盛り上がる女たちの声に混じり、「サヤカの水着姿、やばくね?」など囁き合うメンズの声が近くで聞こえた。
おそらく彼らには、地味な私や恵美の存在など、目に入ってもいないのだろう。
イベントサークルが代々所有しているという、この海の家に集まるのは、私がこの世で最も苦手としている“パリピ”な男女。
内部生や、高校時代から内部生と繋がりのあるような派手めの女子たちは、まるでその美しい肢体を見せつけるかのように、ビキニ姿で練り歩いている。
その美しさに吸い寄せられるようにして、男たちは花に群がるのだ。
一方で私はというと、一応水着は着ているが、Tシャツとショートパンツ姿になるのが限界。それを脱ぎ捨てるなんて、絶対に無理。
カラフルな水着姿を見せつけても許されるのは、美しい女だけと決まっている。
「すごい、やっぱり華やかだねー!」
一軍の輪に入ることもできないのに、なぜか楽しそうにニコニコしている恵美。そんな彼女に私が怪訝な目を向けた、その時だった。
「なんかごめんね、つい身内で盛り上がっちゃって」
突然、声をかけられ見上げると、さっきまで一軍グループの中心にいたはずの、同級生らしき男の顔があった。
男からは「平塚」、女からは「勇太くん♡」とハートマーク付きで呼ばれていたから、彼の名はおそらく平塚勇太(ひらつか・ゆうた)。
まさか彼…平塚くんに声をかけられるなど予想もしていなかった私は、思わずきょろきょろとあたりを見回す。が、私と恵美以外、そばには誰もいない。
「えーっと…、いえ、別に…」
つい敬語になってしまったのは、彼が私に、これまで向けられたこともない優しい眼差しを注いだから。
そのあまりの眩しさを直視できず、私はすぐに視線を逸らしてしまう。
傍観者として遠巻きに眺めているだけでも、彼の甘い顔立ちや笑った時のあどけない表情は、私の瞼の裏にも自然と残っていた。
生まれながらの愛され男子、とでもいうのだろうか。
彼自身は決して狙っても意識してもいないように見えるのに、女性のハートを次々と鷲掴みにする魅力がある。そして実際、平塚くんは常に、華やかな女たちに囲まれていた。
そんな彼が、なぜ私に声を?
戸惑うことしかできない私に、平塚くんは再び優しく笑いかける。そしてあろうことか、手まで差し伸べたのだ。
「ふたりとも一年だよね?こっち来なよ、皆で話そう」
…その瞬間の胸の高鳴りを、私は未だにずっと、忘れられずにいる。
美人は得をしやすいのは本当だと思います。そりゃキレイな人と一緒にいたいだろうから。
でもそれ以上に、卑屈にならず明るくニコニコしてる人が一番!と生きてきた中ではそう思います。
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