2018.08.29
恋と友情のあいだで~廉 Ver.~ Vol.10抗えぬ、里奈への思い
卑怯に聞こえるかもしれないが、里奈と“そういうこと”になったとはいえ、僕が美月と別れるという選択肢は現実的でなかった。
夫婦生活に多少の問題があるとはいえ、“離婚”という考えを持つことに怯えや躊躇を持ってしまうのは、きっと里奈も同じはずだ。
それぞれに築きあげた生活を壊してはならない。絶対に。
その考えに、一線を越える前も後も変わりはなかった。
それゆえシンガポールに戻ってからの僕たち二人のやりとりは、お互いの生活を壊さぬよう、それまで以上に気を遣って交わされた。
以前のように、美月がいる前で頻繁にスマホを触ったりしない。
そのあたりは十分に配慮し、夜の時間にチャットをするのは彼女がお風呂に入っている間と、寝静まったあとに限るようにした。
お互いに牽制もしていたのだろう。
毎晩のようにメッセージを送りあっても、しばらくは以前と変わらぬ他愛ない言葉を交わすだけで、そのことは僕にとっても、そしておそらく里奈にとっても、罪悪感を薄める要素になり得ていた。
…しかし、慣れというのは恐ろしい。
罪悪感に苛まれ、これ以上の深入りは危険だと、十分に分かっていたはずなのに。
里奈とのやりとりは時間の経過とともに次第に艶を帯びていき、1ヶ月が経とうという頃には結局「会いたい」などという言葉をいとも簡単に送り合うようになってしまっていたのだ。
不穏な予感
僕は僕なりに、ともすると転落しそうな崖の瀬戸際で、必死に抗っていた。
しかし里奈との蜜月が止めようもなく深まっていったのと、僕と美月の関係が再び歪になっていったのは、どちらが先だっただろう。
ある朝、僕は大げさなまでのため息の音で目を覚ました。
寝ぼけまなこで美月の方をみやると、彼女もまるでこの世の終わりのような表情で僕を見つめ返す。
「また、来ちゃった…」
絶望的に呟くその声で、僕は「ああ」とすべてを察知した。彼女の落胆の理由。それは、望まぬ生理がまた来てしまったことに違いない。
「そっか。残念だけど、仕方ないよ」
一応慰めてはみるが、その言葉が彼女に響かないことも僕は知っている。案の定、美月は暗い表情を浮かべたまま、無言で寝室を出て行った。
美月にそのつもりはないだろうが、こんな時、僕は自分が責められているような重たい気分になってしまう。
...やりきれぬ思いで、枕元のスマホを手にとる。
すると里奈ではなく、思いがけず元カノ・結衣からメッセンジャーが届いていた。
“この前は10周年パーティー、楽しかったね😊久しぶりに廉にも会えて、嬉しかった💓”
今さら感のあるメッセージだったが、そういえば彼女は昔からかなりマメなタイプだった。
そのため僕は特に違和感も抱くことなく「楽しかったよな!」などとすぐに返信を送ったのだが、しかししばらくして再び結衣から届いたメッセージは、僕の心を小さく波立てた。
“そういえば廉、どうして2次会来なかったの?”
“相沢さんと廉だけだよ、来なかったの”
−一緒にいたわけじゃないよね?−
書いてはいないが行間から、そう言いたいのがひしひしと伝わってくる。
カマをかけているだけで里奈との密会がまさかバレているわけはないだろうが、それでも彼女の勘の良さに僕は舌を巻いた。
“ごめんごめん、出張で疲れちゃってさぁ”
そんな風にごまかしてはみたものの、喉につっかえるように、嫌な感触が残った。
しかし、この時の僕は、まだ本当の意味で気づいてはいなかったのだ。
道を踏み外した男女に、世の中がどれほどまでに嫌悪の目を向けるかを。
...そして、女という生き物が、いかに恐ろしいかを。
▶NEXT:9月4日 火曜更新予定
親友だと思っていたのに...。女たちの黒い感情が、牙を剥く。
朝まで一緒に居られる?なんて言われたら、そりゃあ好きだし帰りたくないし…っていう気持ちは不倫してなくても分かるけど、家に帰ったとき直哉がどれだけ怒り狂ってたか考えただけで恐ろしい。
里奈がそんな思いをしてる時、廉は美月に償いのキスですか、そうですか。
人それぞれだとは思うけど、不倫すると奥様と仲良くなるというのには、男性側には、こういう感情の動きがあるんだな…
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