ポイズン・マザー Vol.2

ポイズン・マザー:「あなたの結婚に、全てを賭けているの…」“院長の妻”という肩書きを失った母の、大暴走

「親を大事にしろ」

人はそう、口を酸っぱくして言うけれど。
生まれてくる親を、子は選べない。

名誉や金にすがった親の“自己愛”の犠牲となった、上流階級の子どもたち。

代々続く地方開業医の娘として生まれた七海(31)も、そのうちの一人であった。

父の死をきっかけに、母は本性をあらわした。そんな母との関係に苦悩する女の、“幸せをかけた闘い”が幕をあけるー。


七海は、父の死後少しずつおかしくなっていく母の様子に気がつく。

母は、父が大切にしていた車や時計を「必要ない」と言って次々と売り払ってしまう。さらには、都内の超高級マンションを購入していたのだった。


「七海に紹介したい男友達がいるの。七海の写真見て、すごく気に入ったらしいんだ。ああいうの、一目惚れっていうのかな?」

ある日、高校時代からの親友・美寿々から突然そう言われたとき、私は全く気乗りせず、むしろ弱気になった。

「…でも、実際に会ってガッカリされたらどうしよう?」

思わずそう呟くと、美寿々は呆れた顔でため息をつく。

「また、出た。七海はすごく美人なのに、なんで昔から、恋愛が絡むとそんなに自信がないんだろう?」

「さあ…」

苦笑いをして、それ以上は何も答えられなかった。

私は10代のころから、恋愛が苦手だ。

容姿や人とのコミュニケーションで、取り立てて苦労したことはない。勉強も得意だし、仕事もなかなか順調だ。なのに恋愛となると、途端に自信がなくなってしまう。

仮に誰かを好きになっても、先に結論をだしてしまうのだ。「私が、この人を振り向かせられるわけがない」って。

クラスで一番モテる女の子や、彼氏が途切れたことのない友達は皆、女として自分への確固たる自信に満ち溢れている。そんな恋愛市場で、自分の魅力に誇りを持てない女が勝ち残れるはずがない。

だから私には、自分から好きになった誰かを手に入れた経験は一度もなくて、いつも相手から押されて付き合うことばかりだった。

思えば、子供のころから私は、どこか自分に自信がなかった。母は、私のことを決して褒めてくれなかったのだ。

「私のほうが、どう見ても七海より美人よ。私、あなたほど鼻が低くないし、顔だってあなたの方が大きいじゃない」

学校で「桐谷さんは、お母さんにそっくりね」と先生から言われたことを、私が照れながら母に報告したとき。母は、寝室の鏡に映る自身の顔をじっくりと覗き込みながら、真顔でそう言った。

この記事へのコメント

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No Name
自分を褒めてくれない母親の下で育ったのに、人の幸せに対してちゃんと「おめでとう」って思えるのはすごいと思う。七海には素直に幸せになって欲しいなぁ……。
2018/08/08 05:1699+返信13件
No Name
褒めてくれない、姉を贔屓する、親戚や友人の子供を批判?する、交際相手〜結婚相手の条件を勝手に設定し娘の恋愛をコントロールしようとする、全てが過去の、自分の母と私の関係に当てはまり、胸がしめつけられそうになります。
2018/08/08 05:4099+返信10件
No Name
お母さん、、元々毒親だったんだね!
娘が素直に育ってて気がつかなかった。
夫が亡くなっておかしくったのかと思ってたけどこれは本当に嫌なお母さんだわ。
2018/08/08 05:5299+
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