
外銀女子:「お嬢様には負けない」生まれも育ちも関係ない“外銀”で下克上を狙う、27歳女の野望
プルルル…
あゆみが立ち去ってすぐに、けたたましく電話が鳴った。
「Hiナオコ、ゲンキー?X社のことでちょっと聞いても良い?」
返事をするより前に、受話器の向こうでセールスのサラが片言の日本語でまくし立てる。
「もちろん。ただ5分後に出なきゃいけないから短めにお願いしても良い?」
同期の直子から見てもサラは優秀だ。仕事が早いのはもちろん、彼女の天性の愛嬌はまさにセールス向きと言えるだろう。
「オッケイ! You know, Bloomberg reported company X may revise up its guidance by ¥5bn, do you think it is a positive surprise for the market?(X社が今期会社計画を50億円上方修正するかもってBloombergにニュースが出てたけど、それってマーケットにとってはポジティブサプライズなの?)」
「I would say NO, its guidance at the beginning of the year is always conservative, and it revises up the plan every quarter, reflecting the actuals.(とは言えないかな。X社の期初計画はいつもコンサバで、毎四半期ごとに実績反映して年間計画を上方修正するのが常だから)」
サラは日本人の母とアメリカ人の父を持つハーフで、海外生まれ・海外育ちのバイリンガル。しかし仕事においては英語の方が使いやすいらしく、こうして電話してくる時はいつも急に英語に切り替わる。
一方の直子は国内生まれ・国内育ちで留学経験も無い。
入社当時は相当な早口で話す社内の外国人やクライアントに苦しめられたが、英会話教室と毎朝のシャドーイングの習慣でなんとか今のレベルまでもってきた。
「過去の会社計画修正の履歴まとめたデータがあるから、最新版にアップデートして参考までに送っておくね」
「ありがとう、ナオコいつも助かる!じゃあね!」
一方的に切られた電話に小さくため息をつきながらもエクセルを開き、最新の決算を反映させた数字にアップデートする。
“電話は2コール以内に取る”
“セールスからのリクエストには1分以内に返信”
これは入社初日に先輩から叩き込まれたルールだ。そして入社6年目になる今でも、直子はこの教えを忠実に守っている。
360度評価※1を採用しているこの会社においては、たとえ相手が他部門の同期であろうと、“Perfectであること”こそが生き残る為の絶対条件でもあるのだ。
手早くサラにメールを送り、腕時計を確認すると時刻は11時52分。
直子はデスク脇にかけられたジャケットを急いで掴むと、約束のフレンチキッチンへと向かうべく小走りにエレベーターホールへと向かった。
...このあゆみとDavidとのランチで、自分がこてんぱんに打ちのめされることも知らずに。
※1 360度評価:上司だけでなく、部下や同期含む同僚全員で人事評価を行う仕組み
▶NEXT:8月8日 水曜更新予定
“実力主義”のはずの外銀。しかし現実はそうシンプルでは無かった…?
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この記事へのコメント
もう二度と戻りたくない世界ですね。