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煮沸 Vol.1

煮沸:破滅した時代の寵児。あなたにわかるだろうか。彼はいつから狂っていたのか


「手紙、ありがとうございます」

面会室にふさわしくない弾んだ声で、飯島が私に礼を言う。

「あんな感じでよかった?」

飯島は黙って頷く。相変わらず色気の無い男だ。

まだ30代後半だが、白髪まじりで伸び放題の髪に、おなじく白髪のまじった無精髭を生やし、もう十分外は暑いであろうに年中同じ長袖のネルシャツにチノパンを履いている。

あの煌びやかなホームパーティーで最も壁の花になっていた男が、最後に私の周りに残った。皮肉な話だ。


我が社のe-learningの事業が急成長したのは、教育心理学のトップランナーである彼のアイデアを基にしたアルゴリズムによるところが大きい。

ところが、IPOの準備に入り、大きな報酬を得られる提案を会社から手に入れたにも関わらず、彼は事業が軌道にのった途端あっけなく会社を離れた。

「橋上さんをこれからも見ていますから」

彼もまさか面会室で私を見ることになるとは思わなかっただろう。


「で、何かわかった?」

当然の質問をすると、飯島は私の予想外のことを言った。

「全ての手記が書き終わるまで、私は橋上さんに分析結果はお話しません。貴方が、それにひきずられてしまうからです」

驚いたが、まあいい。急ぐ必要もない。時間は山ほどあるのだ。とりあえず覚えていることを書いたが、幼少期の記憶など、役に立つとも思えない。

「ただし、橋上さん。一個だけ」

「なんです?」

「十分。幼少期から、十分、あなたは壊れはじめています」

この記事へのコメント

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No Name
また毛色の違う連載が始まった!
煮沸ってどんな意味があるタイトル?と思ったら茹でカエルか。
面白くなりそうで期待。
2018/08/02 05:1699+Comment Icon2
No Name
東カレらしくない、面白そうな連載!読んでて怖いんだけどハラハラして気になるー。最近、新しいのぶっ込んで来てくれるので楽しみ。
2018/08/02 05:3999+Comment Icon2
No Name
もはやレストラン紹介すらなくなってるww
2018/08/02 07:0999+Comment Icon3
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煮沸

【11月23日(土)『煮沸 第二章』配信が決定!】

(あらすじ)
凄惨極まる少年期により解離性同一性障害(多重人格)に陥った男。
さらに男には、考えられない「特殊な能力」が備わっていたー。

昭和から平成へと受け継がれた「社会の負の遺産」により産み出された、最悪の怪物 ”橋上 恵一” 。

恵一により繰り返される数々の凶行、そして手記により徐々に明かされるおぞましき過去。
やがて物語は、決して予想できない衝撃の結末を迎える…!

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