2018.08.02
港区女子の終点 Vol.1港区女子の卒業後の人生➀〜美咲〜
あれから5年が過ぎ、私は31歳になった。知り合いのツテでイベント会社に入り、なんだかんだと忙しい日々を送っている。
「ここで大丈夫ですか?地図だと、もう少し奥になっていますが・・・」
タクシーの運転手さんの親切な心配を丁重に断り、私は西麻布の交差点でタクシーを降りた。
数年間、ほとんどこの界隈に来ていなかった。
何故か?と聞かれても分からない。ただ、昔遊んでいた人たちにあまり会いたくないからかもしれない。
—ごめん美咲。他に好きな子が出来たから、この家を出て行って欲しい。
元彼の啓介にそう突然言われたのは、3年前のことだった。
「え・・・どういうこと?そんなこと突然言われても、これから私、どうすればいいの?」
何度詰め寄っても、彼は“心変わりした”の一言。当時40歳だった彼とは、当然結婚すると思っていた。
「女の子は、いつも綺麗にしておかないと。美咲は、隣で笑ってくれているだけでいいんだよ」
啓介のセリフが、不意に頭をよぎる。
交際期間、3年。その間に、私は東京のありとあらゆる贅を知った。
啓介が住む六本木にある100平米越えのマンションに移り住み、高級ワインの味も覚えた。月に一度の海外旅行は当たり前、ブランド物に囲まれ、生活費も貰える生活。
そんな最高な生活から一転。私は突然放り出され、彼は24歳くらいの女の子と付き合い始めたのだ。
別に、私でなくても良かったのだ。
若くて可愛くて、一緒に連れて歩く際に自慢になるような子であれば、誰でも。
◆
「で、美咲ちゃんは今どこに住んでいるの?」
ハッと我に返ると、目の前に座る男性がニコニコと笑いかけてくる。今日は食事会に呼ばれ、私は西麻布交差点近くにある、カジュアルな居酒屋のような店の個室にいた。
「今は学芸大の方に住んでいて・・・」
「へぇ〜意外な所に住んでいるね」
久しぶりに参加した食事会。彼に悪意はないが、一言一言に、胸がチクリと痛む。
港区女子を卒業し、自分の力で生活しなければならなくなった時、当たり前だが家のレベルは比較にならないほど落ちた。
当時持っていたブランド物も今は買えないし、自分を強く見せてくれる“鎧”は、もう何もない。
それと同時に、当時交際していた友人たちは一人、また一人と消えていった。生活レベルも違うし、皆の話についていけなくなったから。
何より“落ちぶれた”と思われたくなかったのかもしれない。
答えながらも口ごもる自分に対し、ウダツの上がらなさそうな、目の前のマサシと名乗る男性は一人で喋り続ける。
「昔僕も住んでいた事があったけど、学芸大っていい所だよね。この界隈にいると、息が詰まりそうな時があるから」
私はふっと顔を上げた。
贅沢な生活レベルを落とすってすごく大変なのにそこで卑屈にならずに全力でいられるその人間性だけで十分幸せになる能力あると思う
そしてその世界を知っている人たちは、優しくて、強い。」
朝から元気貰いました!ほんとこれ。
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