2018.07.21
SPECIAL TALK Vol.46父の早逝で進学断念も「やるしかない」と一念発起
金丸:高校卒業後は、念願の大学に進学されたんですか?
大山:それが高校3年生の夏に、父に胃がんが見つかりまして。
金丸:当時胃がんは、死亡率が非常に高いがんでしたよね。
大山:父も手遅れでした。僕がまさにこれから受験というときに、余命1年と宣告され、目の前が真っ暗に。でも従業員5人の小さな町工場であっても、それで飯を食っていたわけですから、閉めるわけにはいきません。
金丸:そして後を継ぎ、経営の道に入られた。ですが、お父様も望んでいた進学を諦めるとき、葛藤はなかったんですか?
大山:葛藤以前に長男の自分以外に誰もやれないわけですから、他人に任せて大学生活は送れないと思いましたね。自分がやるしかないと。そう決めたら、あとは迷いも悲壮感もありませんでした。
金丸:「やるしかない」ですか。
大山:人は「AかBかどっちか選べ」と言われたら悩みます。でも僕の場合、選択肢がない状態だったので、かえって楽だったかもしれません。
金丸:やるしかないと思えるかどうかって、すごく重要で、多くの人は「できるかどうか」を考えて、できない言い訳をいっぱい思いつく。だから逡巡してしまう。
大山:当時は逡巡もへちまもないですよ(笑)。工場を継ぐのは、生きるために呼吸するくらい自然なことでした。ただし、下請けは便利屋ですから、安定的に仕事があるわけではありません。元請けが忙しいときだけ仕事が降ってくる。
金丸:どうしても受け身になってしまいますよね。このまま下請けで甘んじていてはいけないと行動を起こす一番の原動力は、何だったのでしょう?
大山:それは価格決定権を自分で持ちたい、という思いです。下請けというのは、上にいる会社の意向を気にしながら、YESしか言えません。つまり、言われるがままの価格で作って製品を渡すしかない。
金丸:一度NOと言えば、それ以降仕事をもらえなくなるかもしれません。
大山:その状況から抜け出したかったんです。もうひとつは、元請けのことではなく、最終消費者のことを考えてものづくりをしたかった。
金丸:大山さんの経営哲学に通じる考え方ですね。
大山:おそらく映画の影響が大きいと思います。僕は個人主義的なヨーロッパ映画にすごく感銘を受けていましたから、ひとりの個人としてどう生きるかについてずっと考えていました。自分の人生は本当にこれでいいのだろうか。いや、一生下請けのおやじで終わりたくない。自分が作るものは、自分で値を決めて勝負したい。そのためには、自社製品を生み出すメーカーにならなければいけないと考えました。
金丸:最初の自社製品は何だったのですか?
大山:21歳のときに作った養殖用のブイです。それまでブイはガラス製でした。水圧には強くても衝撃には弱く、輸送中に割れてしまうことが少なくなかった。ちょうどその頃、真珠ブームが起き、伊勢湾や瀬戸内、長崎の大村湾など日本各地で真珠の養殖が盛んになりました。それに合わせて、プラスチック製のブイも飛ぶように売れました。
金丸:ブイだけでなく、身の回りのあらゆる製品の素材が、金属やガラスからプラスチックにどんどん移り変わっていった時代です。その最先端を大山さんが走っていたんですね。
大山:父がプラスチックを扱っていたおかげです。父からもらった最大のプレゼントで感謝しています。でもブームはいつか終わります。この事業だけではだめだとわかっていたので、ほかにプラスチックに代替できそうなものを探していました。
金丸:そうして次に目をつけたのは何ですか?
大山:農業です。それまで田植えは手で行っていましたが、田植え機が出てきて、機械植えに切り替わっていきました。そこで必要なのが育苗箱です。育苗箱は最初は木製でしたが、水気に弱いし耐久性にも難があります。
金丸:だからプラスチックに置き換えようと。
大山:ただ、ブイのときほど簡単にはいきませんでした。木は保水性、吸水性があるけれど、プラスチックには一切ない。木製と同じ構造のプラスチック製品だと、ちゃんと苗が育たないんです。そこでちゃんと育つためにはどうすればいいのか試行錯誤を繰り返し、植物生理に適した育苗箱を開発しました。
金丸:最近では米も扱っていらっしゃいますが、そんなに早い段階から農業に関わっていらしたのですね。
大山:うちの事業は、業種は違っていても全部つながっています。常に地下の脈絡がつながっている。レンコンみたいなものです。
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