SPECIAL TALK Vol.46

~消費者が求めていることに耳を傾ければヒット商品は必ず生まれる~

金丸恭文氏 フューチャー株式会社 代表取締役会長兼社長

大阪府生まれ、鹿児島県育ち。神戸大学工学部卒業。1989年起業、代表取締役就任。規制改革推進会議議長代理、未来投資会議構成員、経済同友会副代表幹事、NIRA代表理事を務める。

「悔いのない人生を送りたい」という思いが挑戦と成功の原動力

金丸:2011年の東日本大震災後は、精米事業にも参入されますね。

大山:東北が拠点ですから、東日本大震災はいろいろなことを考え直す契機になりました。当社のマーケティングコンセプトを「快適生活」から「ジャパンソリューション」に事業の幅を広げることを意識し始めたのも、震災がきっかけです。

金丸:日本の課題にチャレンジしようという決意の表れですね。

大山:その通りです。まずは節電を進めるために、消費電力が少ないLED照明の開発にこれまで以上に力を入れました。そして、東北の復興には米は欠かせないということで、精米事業に乗り出しました。

金丸:米の品質に厳しいコンビニ業界が、アイリスオーヤマの米に切り替えたと伺いましたが。

大山:ありがたいことです。うちの一番の特徴は、低温製法なんです。米は精米の過程で起きる摩擦熱によって熱くなります。でも米に含まれるアミラーゼといううまみ成分は、40度を超えると劣化してしまいます。だからうちの工場では、倉庫も工場も室温を15度に保ち、精米で熱が発生しても30度程度に抑えられるようにしています。

金丸:うまみを損なわないから美味しいんですね。

大山:個人向けに販売している米も、パッケージに劣化を防ぐ工夫をしています。ふつう米は空気穴の空いたビニール袋に詰めますが、うちは密封パッケージを使用し、脱酸素剤も入れています。

金丸:そうなんですね。最近では、アイリスオーヤマの炊飯器にも驚かされました。おひつの部分とIHヒーターの部分が分かれるので、それ
ぞれ別の調理器具として使えたり、米の銘柄ごとに最適な水の量を教えてくれたり。これまでの家電メーカーにはまったくない発想ですよね。

大山:大事なのは、目線です。たとえば「富士山を描いてください」と言うと、ほとんどの人は横から見た富士山を描きます。でも上から見ると、富士山はまん丸。静岡から見るか、山梨から見るかによっても姿、かたちが変わります。そうやって目線を変えれば、ちょっとした不便なことはいくらでも見つかります。

金丸:なるほど。

大山:実はあの炊飯器を開発したのは、元大手家電メーカーの技術者たちなんです。国内のメーカーが業績不振で技術者を大量に放出しました。僕はその技術者たちを何とか助けたいと思い、アイリスオーヤマに迎え入れたんです。

金丸:そうだったんですか。

大山:最初に募集したとき、「仙台に来てくれ」と言っても、ほとんどの方が快い返事をくれませんでした。家電メーカーの工場は関西に集中していたので、住み慣れた土地を離れて単身赴任するのは抵抗があったようで。そこで大阪に開発拠点を作ることにしました。

金丸:技術者がどうしたら安心して働けるかを考えるというのは、ユーザーインと同じ発想ですよね。大山さんは、それが徹底しています。

大山:働く人たちを優先しただけです。おかげで今面白いですよ。かつて競合だったメーカーの技術者たちがワイワイガヤガヤするから、いろんな商品が出てきます。

金丸:大山さんは大学進学を諦めて、お父様の跡を継がれました。最初は自分の意思ではなく天命のようなスタートでしたが、その後は一生懸命に事業に打ち込み、ビジネスモデルを変えながら、たくさんのチャレンジと失敗を経て、ここまでの大企業に育てられました。それができたのは、いったいなぜでしょう?

大山:答えはシンプルです。「人生は一回しかないんだから、悔いのない人生を送りたい」。これだけです。だから、いくつになっても仕事に夢中でいられる。僕の半生を話すと、「大変なご苦労をされたんですね」とよく言われます。もちろんしんどい時期もあったけど、嫌な上司はいないし、自分のやりたいことをやることができた。自分自身はいつも納得した上でやっているから、苦労とは思っていないんです。

金丸:今、日本でも起業する若者が増えていますが、一方で安定を求めて、挑戦することを避ける人も大勢います。地方の国公立大学では、就職先に県庁よりも転勤のない市役所を選ぶ人が多いと聞きます。

大山:今の教育というのは、失敗させない知識を教えている。知識が詰まれば詰まるほど、できない理由を考えてチャレンジしようとしません。でも後ろ向きになってはダメです。ポジティヴに考えないと。人生は一回しかないのだから。

金丸:悔いのない人生を送るには、三振を恐れず、フルスイングすることも必要です。大山さんの人生はまさにそうでした。大山さんの生き様を知った若者たちは、きっと奮起してくれることでしょう。今日は本当にありがとうございました。

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