2018.04.21
SPECIAL TALK Vol.43海外のアート本を読む日々。美術と文学に夢中になった子ども時代
金丸:鶴本さんがどのような経緯で、日本のものづくりのブランディングに関わるようになったのかを伺っていきたいのですが、まずお生まれはどちらですか?
鶴本:大分県の由布院です。今は由布市になっています。
金丸:私も何度か由布院を訪ねたことがありますが、いいところですね。
鶴本:ありがとうございます。私が子どもの頃はあまりパッとしない、普通の温泉地でした。そこから由布院で有名な亀の井別荘という旅館の当時の社長である中谷健太郎さんが中心になり、映画祭やアートフェスティバルなどを積極的に開いて、由布院を文化で勃興させたんです。中谷社長は、もともと黒澤明監督の助監督を務めていらして。
金丸:文化で町を演出されたと。
鶴本:自分が生まれ育った町が、どんどんブランド化されていくのを間近に見ていたことが、今のブランドづくりにも強く影響しているように思います。
金丸:ご両親は何をされていたのでしょうか?
鶴本:母は普通の主婦で、父は外国船の船長をしていました。
金丸:ということは、長い期間、家を留守にされていた?
鶴本:そうなんです。そのかわり、夏になると世界中で買ったお土産を段ボールにいっぱい詰めて帰ってきて、家にいる間はずっと遊んでくれました。お土産のなかには、雑誌の『ナショナルジオグラフィック』や美術の本があって、次第に海外の文化に憧れるようになりました。
金丸:子どもの頃はどんなお子さんだったんですか? 由布院は自然が豊かですから、山を走り回っていたとか?
鶴本:それが外で活発に遊ぶような子どもじゃ全然なくて、すごく奥手で。小学校も中学校も文学少女というか、軽い引きこもりみたいな感じで過ごしていました。
金丸:軽い引きこもり、ですか?
鶴本:学校が終わるとすぐに家に帰って、海外のアート本とか、自宅にあった文学全集や絵画全集をずっと眺めていましたね。
金丸:子どもの頃からアートに興味があったんですね。では描くほうも好きだったんですか?
鶴本:もちろんです。自由に描くのが大好きで、小中学校のときは毎年のように様々な賞をいただいていました。
金丸:それはすごい。
鶴本:でも友達は少なくて、ひとりで過ごすことが多かったですね。周りになじめていない自分がいるというのはわかっていたんですけど、それでもやはり、ひとりで文学やアートの世界に埋没しているほうが心地よかったのを覚えています。
東京の美大に進学するも、親元に呼び戻される
金丸:でもこうしてお話ししていると、相当社交的に見えますけど。
鶴本:あまり信じてもらえないのですが、本当に奥手だったんです。
金丸:では、高校で転機が?
鶴本:はい。地元を離れて、大分市にある大分女子高校という高校に進んだんですが、小中学校にはなかった美術部があって、そこで初めて自分と同じような人たちに出会うことができました。
金丸:自分をちゃんと出せて、理解してもらえる場所ができたんですね。
鶴本:高校ではさらに美術にのめり込み、ファッションにも目覚めていきましたね。高校の修学旅行で初めて上京したときは、美術部の仲間と一緒にラフォーレ原宿に行ったり、コム・デ・ギャルソンのパルコ店を見たりして、大はしゃぎでした。
金丸:その後、大学はどちらに?
鶴本:女子美術大学の短期大学部です。父から「大学は九州内の女子大で、短大じゃないとだめだ」と言われていたのですが、私は絶対に美大に行きたかったので。
金丸:でも九州ではなく、東京ですよね?
鶴本:ええ。女子大で短大で美大となると、女子美だけなので、こっそり願書を出しまして(笑)。
金丸:家にお父様がいない隙に(笑)。
鶴本:東京での短大生活は、本当に楽しかったですね。時はまさにバブルで、街自体が刺激的でした。東京中で素晴らしい展覧会やコンサート、舞台をやっていて、作品制作の合間をぬっていろいろなところに足を運んで、まるで海外で暮らしているような衝撃でした。
金丸:〝元引きこもり〞とは思えないようなハジけっぷりですね(笑)。卒業後はどうされたのですか?
鶴本:それが、いろいろありまして。2年って短いじゃないですか。もっと美術を学びたいと思って、「四年制大学に編入したい」と父に伝えたんですが、「だめだ、とにかく一度大分に帰ってこい」と。
金丸:で、実際に帰ったんですか?
鶴本:はい、ちょっとだけ。
金丸:ちょっとだけ(笑)。でもお父様の言うとおりに帰るのも、立派ですね。
鶴本:今だったら強く反抗すると思います(笑)。でも当時は逆らえない保守的な雰囲気があって、言われるまま大分に戻り、市役所の文化施設で受付として働くことになりました。
金丸:また意外ですね。鶴本さんが勤めている姿が、まったくイメージできません(笑)。
鶴本:父が勝手に就職先を決めてしまってたんです。でも今になってみると、閉じられたところからいかに脱出するかが、私のパワーの源というか。その抑圧からの解放によって、パワーが生まれていたように思います。
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