SPECIAL TALK Vol.43

~「引きこもり」からマンハッタンへ。モノの真価を世界に届けたい~

結婚を機にニューヨークへ。アートディレクターの日々が始まる

金丸:大分ではその後、どうされたのですか?

鶴本:実はミラクルが起きまして、短大時代に付き合っていたニューヨーク在住の現代美術家と結婚することになりました(笑)。

金丸:また急転直下の出来事が!

鶴本:彼が大分まで迎えに来てくれて。

金丸:そんな話、今まで全然出てこなかったじゃないですか!?

鶴本:短大のとき、友人から紹介されたんです。彼は東京とニューヨークを行ったり来たりする生活をしながら、大分の私の実家にも電話をくれまして、私が「やっぱり大分にいるのが耐えられない」と話すと、「だったらニューヨークに来れば?」と。

金丸:あ、そういうプロポーズ?

鶴本:そうですね。「結婚しよう」って。

金丸:なんだか鶴本さんの人生は、勢いがありますね(笑)。

鶴本:タイミングにも恵まれているかもしれません(笑)。

金丸:結婚についてお父様は?

鶴本:それが、まったく反対しませんでした。海外に抵抗がなかったのが幸いしましたね。そして結婚を機に、夫のアート作品のマネジメントの仕事をするようになりました。

金丸:ニューヨークではどこにお住まいに?

鶴本:マンハッタンのトライベッカという、アーティストが多く住んでいる地区です。

金丸:由布院の山奥から、一気にニューヨークですか。しかし、お話を伺っていると、割とシンプルに道を選ばれているように感じます。もちろん才能があったからでしょうけど、子どもの頃から大好きだったアートに迷いなく進まれている。

鶴本:それは小中学校のときに引きこもって、アートへの憧れを醸成していたことが、すべての始まりかもしれません。「みんながサッカーやっているから、自分もサッカーやらなきゃ」とか「みんなが塾に行ってるから、私も塾に行かなきゃ」とか、みんなに合わせず自分の好きなことをやり続けたのが、結果的によかったと思えます。

金丸:みんなと違っていても、自分が本当に興味を持っていることをやるべきですよね。

鶴本:そうですね。もちろん子どもの頃は、そういう信念を持ってやっていたわけではありませんが。

金丸:ちなみに、お母様は何も言わなかったんですか?

鶴本:母もアートや文学が好きだったので、私が引きこもっていても何も言わず、知らん顔をしてくれていました。むしろ絵画で賞をとると、すごく喜んでくれました。

金丸:お母様が引きこもりに対してネガティブじゃなかったというのは、大きいですね。「もっと太陽を浴びなさい」とか言われていたら、才能がしおれていたかもしれない。体育が得意な人もいれば、文学や絵画が得意な人もいる。それをちゃんと認めてくれていたんですね。

日本のものづくりに出逢い、ブランド化を使命と感じる

金丸:アートマネジメントの仕事から、ブランドディレクターに転身するきっかけは、何だったのですか?

鶴本:今から10年前に、たまたま日本で最後の魔法瓶工場に出逢ったことです。

金丸:日本で最後ですか?

鶴本:魔法瓶というのは、ほとんどが海外で生産されていて、日本で一貫生産しようとすると、新潟県の燕三条にある工場でしかできないんです。

金丸:燕三条は私も大好きな地域のひとつです。あそこは高い技術力を誇る製造業の会社がひしめき合っていますよね。燕三条をもっとハイテク化し、グローバル化すべきというのが、私の持論です。

鶴本:おっしゃるとおりです。せっかくいいものがあるのに、それを発信しないのはもったいないですよね。その日本最後の魔法瓶メーカーが、2008年に東京の青山に「SUS gallery」(サスギャラリー)というショールームをオープンしまして、私はそこにディレクターとして招かれたんです。

金丸:なぜ鶴本さんに白羽の矢が立ったのでしょう?

鶴本:オープン当初は大手代理店と有名な元家具メーカーがチームを組んでいました。その家具チームのトップが、高校の美術部の親友で、ニューヨークでの活動を見てくれていたんです。

金丸:そういうご縁で。しかし、それまでの仕事とは違う分野への挑戦ですよね。

鶴本:ええ。ただ、迷いはありませんでした。その当時、私は東京とニューヨークを行き来しており、あの同時多発テロが起こったときは、ちょうどニューヨークにいました。しかも息子がワールドトレードセンター近くの幼稚園に通っていて、1機目の飛行機がビルに突入するのを目撃していまして。

金丸:それは強烈ですね。

鶴本:自宅も退避地区にあったので、すぐに退去させられ、日本に帰国しました。それからは自分の人生について考え直すところがあって。何か自分にしかできないことに挑戦したいと思っていたとき、オファーをいただいたんです。そして魔法瓶工場のことを知り「こんなにすごい技術があるのに、どうしてもっと外に発信しないんだろう?」って。これを一流のブランドに育てることが、自分のミッションだとひらめきました。

金丸:そうなんですね。鶴本さんはタイミングに恵まれているというより、タイミングを掴むのがうまいのかもしれません。

鶴本:ところが、まさにこれからというときに、リーマン・ショックが起きてしまい……。

金丸:あれ? 悪いタイミングを掴んでしまった?

鶴本:大手代理店も家具メーカーチームも撤退し、私ひとりになってしまった。でもギャラリーは残っている。このまま終わらせちゃいけないと、ブランディングから商品開発、流通開拓の何から何までをひとりでやることになってしまいました。

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