2018.04.09
理想の嫁 Vol.1元・経営コンサルの血が騒いだ瞬間
レオナールのワンピースにミキモトのパールイヤリングは、どちらも豊が買ってくれたものだ。美月は、姿見に映った自分の“夫人感”に、思わず苦笑してしまう。
そして、手土産にと『紫野 和久傳』の春限定の羊羹「夜さくら」を片手に、義母のもとを訪れた。
「美月さん、この羊羹すっごく美味しいわ」
早めに来てくれるとありがたいと言っていた義母だが、いつも通り、特段の用事はないようだ。
ー要するに、暇つぶしの話し相手が早く欲しかった、そんなところね…。
「最近、ネイルサロン変えたの。あとね、この前デパートに行ったのだけど…。あ、そうだ、美月さん。お礼状はきちんと鳩居堂で買ったかしら?」
要点のない、頭に浮かんで来たことをそのままつらつらと話す義母。美月はそれをひたすら聞き続ける。そして、この忍耐は数時間続くのだ。
日が傾き始めたのを見計らって、美月は義母に声をかけた。
「お義母さん、そろそろお店に向かいましょうか。車を呼んでおきます」
◆
山内家では、月に一度家族で食事をするのが恒例になっている。
今晩は、京橋の『天ぷら 深町』へ。程よく薄い衣が美味しさを際立たせる、天ぷらの名店だ。
19時を過ぎた頃、ようやく義父と夫の豊が登場し、食事がスタートした。
「日本酒をいただこうかな。美月さん、付き合ってくれる?」
美月は、山内家の食事会では控えめにしているが、昔からお酒に強く、また大好きである。豊も義母もお酒に弱いため、義父が美月を誘ってくれるのが素直に嬉しい。
日本酒とともに季節野菜の天ぷらを味わう和やかなムード。ところが、その空気が一瞬にして変わったのは、義父の一言がきっかけだった。
「実は…医院にコンサル会社を入れようと思うんだ。あと、病院の内装なんかも変えようかなと思って…」
普段、食事の場では仕事の話を一切しないはずの義父が、突然切り出したのだ。その目は、美月の方をじっと向いている。
義母と豊は、「ふーん」と反応しただけで全く興味がなさそうだ。
ところが美月は、思わず背筋がピンと伸びる。気づいたときにはこんな言葉を口にしていた。
「どんな目的でしょうか。何か問題でもあるんでしょうか」
義父は一瞬だけ、動揺したように見えた。しかしその後は、歯切れの悪い回答が続く。
「いや、それは特に理由は…」
「美月さん!!!!!!」
そのとき、義母の甲高い声が耳に響いた。
「医院のことは、院長と副院長が決めること。あなたは口を出さなくて良いの!」
「す、すいません…」
ーしまった…。余計なことをしちゃったわ…。
「こんな場で話すべきじゃなかったな、悪かった」
義父も空気が悪くなったことを察知したらしい。話を強制終了させた。
それでも、義父の様子がソワソワしていて何となく落ち着きがないのは、洞察力の優れた美月の目には明らかだ。
美月は、久しぶりに経営コンサルタントとして働いていた時の“カン”が反応した気がした。
−絶対に何かある…。お義父さんは、何か悩んでいるわ。
“何の目的もなく、コンサルタントを雇ったり、新たなことをチャレンジしようとするのは、会社の危険信号ー。”
うまく行っていない現状があり、どうにか打破したいがどうしたら良いか分からず、とりあえず他力本願でコンサル頼み。こんな状況を何度も目にしてきた。
美月の脳裏を嫌な予感がかすめる。
−もしかして、経営がうまく行ってない…!?
あの義父の美月をじっと見つめる眼差しは、SOSのサインだったのだろうか。
美月の心臓がドクンと大きく脈を打ち、胸の奥がキュッと痛む。
−でも、まさかね。山内歯科医院に限ってそんなこと…。
この時、美月は、自分の悪い予想が現実のものとなるなんて、思ってもみなかった。
▶︎Next:4月16日公開予定
山内歯科医院が抱える秘密が明らかに…!?
※本記事に掲載されている価格は、原則として消費税抜きの表示であり、記事配信時点でのものです。
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