2018.03.20
SPECIAL TALK Vol.42金融の世界を渡り歩き、ついに起業を決意する
金丸:さて、いよいよ金融業界に入られますが、金融の知識はあったのですか?
渋澤:いえ、まったくなかったです(笑)。今でも覚えているのは、最初ファースト・ボストンという証券会社に入社したんですけど、ニューヨークで研修を受けている最中に、ブラックマンデーが起きまして。
金丸:1987年ですよね。世界的に株価が大暴落した。
渋澤:ニューヨークのディーリングルームが、大パニックになりました。でも当時の私は、「1日で株価が20%下がる」ことがどういうことなのか、あまりよく理解していなくて、何か大変なことが起きている、みたいな感じでしたね。その後はJPモルガン、ゴールドマン・サックス、そしてムーア・キャピタルというヘッジファンドに移りました。
金丸:誰もが知る超大手からヘッジファンドに移ったのは、どうしてですか?
渋澤:ヘッジファンドは、言うなれば金融業界のベンチャーです。それまでは大きな組織じゃないと戦えないと思い込んでいたのですが、バブル崩壊の頃から日本の金融機関の存在感が薄れ、代わりにヘッジファンドが台頭してきた。市場でいきなり大きな金額を動かしているので、いったいなんだろうと知りたくなり、転職しようと。
金丸:興味をもったら、すぐ実行なんですね。
渋澤:その頃、ヘッジファンドに勤めていた日本人はほとんどいませんでしたからね。5年勤めてみて、たとえ規模が小さくても大きな仕事ができるんだと気づかされました。自分でも何かやりたいと思うようになったんです。
金丸:それが起業につながったんですね。
渋澤:はい。たまたま窓が開いていたので、ちょっと飛び込んでみようかなと。だめだったら、またどこかに勤めればいいやという軽い気持ちで。それで2001年にシブサワ・アンド・カンパニー株式会社を立ち上げ、オルタナティブ投資(上場株式や債券といった伝統的資産と呼ばれるもの以外の新しい投資対象や投資手法)のアドバイスを始めました。
金丸:コモンズ投信株式会社は、いつ立ち上げたのですか?
渋澤:07年に準備会社を作り、創業したのは翌年の08年です。
金丸:2008年というと、リーマンショックの年ですね。
渋澤:そう、真っ最中。コモンズ投信は異端児だったので、リーマンショックの影響で、かなりバタバタしました。
金丸:どういうところが異端なんですか?
渋澤:それは、先ほどのレバレッジをかけて多くのリターンを目指すオルタナティブ投資ではなく、無理せずに少しずつストックを作っていく積立投資をメインとしている点です。販売手数料を取らないし信託報酬も安いので、業界的には儲からないとされていて。
金丸:それでも長期投資を日本に根付かせたかった。
渋澤:そうですね。しばらくはオルタナティブ投資で稼ぎながらと考えていたのですが、リーマンショックのせいで、そうもいかなくなった。離陸している最中に、エンジンに異常が発生したようなもので、軌道に乗せるまでに時間がかかりました。
ギャンブルではなく、持続可能性のある投資を
金丸:渋澤さんは証券会社からヘッジファンドまで、業態の異なる複数の金融機関を渡り歩き、最後に長期投資に行き着きます。それはなぜでしょう?
渋澤:大きな理由は2つあります。1つは2000年に長男が生まれたことです。私が39歳だったので、「この子が成人するとき、俺は還暦か」と。子どもの将来のために応援資金を用意したいと思い、長期投資の子どもの口座を作りました。
金丸:お子さんのために、自身が始めたんですね。
渋澤:もう1つは、2001年に起きた同時多発テロです。私はその日、シアトルにいました。今日みたいに青空のきれいな日でしたね。それまでは電話一本で何十億円、何千億円を動かすのが当たり前の仕事をしていたのに、テロの日を境に人もモノもいっさい動かなくなり、家族とも連絡が取れなくなりました。そのとき、明日も明後日も続くというサステナビリティ、持続可能性がいかに大事かということに気づいたんです。それまで当たり前だと思っていたものを失ったとき、人はパニックに陥るものだと。だからサステナビリティっていうのは、誰かに与えられるものではなく、一人ひとりの意識を高めなければ得られないものなんだと改めて感じました。
金丸:それが原点なんですね。ところで投資に関していえば、日本人はやはり意識が低いと思います。アメリカ人は資産を株式で持っている人が多いけど、日本人は現金で持っている人がかなりを占めます。現金のまま銀行口座で眠らせてしまっているのは、一番もったいない。
渋澤:日本では、投資に対してネガティブな印象がありますよね。言葉自体も「投げる資金」なので、ギャンブルみたいじゃないですか(笑)。
金丸:レバレッジをかけて短期間でリターンを得ようとすれば、ギャンブルになってしまうけど、すべての投資がそうではありませんからね。
渋澤:ここで金丸さんに、ちょっと質問をしたいんですけど、日経平均連動型のファンドがあるとして、バブル時代の日経平均株価が4万円近かったときに、一括で株を買っていた場合、その資産は現在もマイナス40%と一度も黒字化せず目減りしたままです。でも同じタイミングで、毎月定額の積立投資を始めていたとしたら、現在どのくらいの損益になっていると思いますか?
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