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大学の入学式から、1ヶ月が経った。
寛子は今日、入学式当日に同じスナップで声をかけられた利恵・由美子・舞と、いまはなき芦屋の『JOJO』でお茶をしていた。
神戸女学院の一回生代表として大きく掲載されたこの4人組は、学部の中では1、2番に目立つグループとなっている。
暖かい陽が差す『JOJO』の美しい空間に見事に調和した女友達を、寛子はうっとりと眺めていた。
入学式当日にスナップデビューを無事果たし、美しい女友達と有名読者モデル行きつけのカフェでお茶をしている。高校生の頃から思い描いていた“神戸嬢”としては、完璧な滑りだしだ。
寛子が満足感に浸りながらチーズケーキにざくりとフォークを入れると、4人の中でも一番お嬢様で大人びた由美子が、突然こう言い出した。
「私、バイトしようと思うねん」
その言葉に、皆驚きを隠せない。4人の中で一番率直にモノを言う利恵が、すぐ質問を畳みかける。
「なんで?由美子はバイトなんかせんでも、欲しい物はパパに買ってもらったらいいやん」
由美子の父親は、神戸でも名の知れた不動産会社の社長をしており、わざわざアルバイトなんかしなくたって、お金に苦労するはずはないのだ。
「いや、ちがうねん。あのブランドから、誘われてるねん」
そう言って由美子が口にしたブランドは、神戸のカリスマ読者モデル・菜々子がプロデュースする有名アパレルブランドだった。
寛子はそれを聞いて興奮し、思わず口走った。
「えっ……!?あの菜々子さんの!?そんなん、うらやましいわ……」
寛子が次に目指していたのは、皆が憧れる菜々子のブランドショップで働き、読モとしての箔をつけることだった。早くもそのチャンスを掴みだした友人に、一気に焦り始めた。
「なに、寛子ちゃんも興味あるん?」
そう言って由美子は、寛子に真っ直ぐ視線を向けた。
神女の中でも飛び抜けたお嬢様である彼女は、揺るぎない瞳で人を見つめる癖がある。寛子は自分の胸の内を悟られた気がし、気まずくなって目を逸らした。
しかし由美子はその様子に構わず、きっぱりとこう言った。
「もう一人、可愛い子探してるって言ってたわ。寛子ちゃん、紹介しようか?」
「え……」
あのブランドでのショップ店員のアルバイトは、通販サイト用の写真モデルをこなすことも多く、容姿の良い読者モデルが好まれた。
このチャンスを掴めば、神戸嬢のトップとして認められた何よりの証となる。寛子は気付かれないように小さく息を吸い込み、控えめに答えた。
「……いいの?」
すると由美子は「もちろん」と言って、その場でアルバイトを紹介してくれる先輩に電話をかけはじめた。
しかしそのときの寛子は、知る由もなかったのだ。
狭い女の園で起こる、数々の悲劇を―。
▶NEXT:3月13日火曜日更新予定
神戸の女の園で起こる、壮絶なマウンティングとは?
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この記事へのコメント
可愛ゴー時代のJJ、大好きでした!
懐かしくて楽しみにしています。
楽しみです!