不倫の手がかり
予定通り、あゆみは14時過ぎに家に到着したが、樹はすでにいなかった。
いつもの見慣れたこの家に、何だか急に居心地の悪さを感じて、あゆみは不安を煽られた。
ー私は、どうするべきなのだろう…。
あゆみの気持ちとしては、こんなことで愛する夫を疑いたくなどないし、そもそも考えたくもない、というのが本音だ。しかしあのメールが、どうしても頭から離れないのだ。
不安な気持ちはなかなか収まらずソファでぼんやりしていたら、いつの間にか日が暮れて、あたりが暗くなっていた。普段切り替えの早いあゆみにとっては、珍しいことである。
何とか他に気をそらそうと、ネットでAmazonビデオのページを開く。
ー映画でも見ようかな…。
あゆみが映画のカテゴリーで探していると、少し前の作品が目に入った。それは、ある男女の不倫を、純愛として描いたもので、多くの人を魅了した映画だ。
しかし、今のあゆみには、この作品は憎たらしいものでしかなかった。
ーどうして世の中に溢れる不倫の物語は、純愛として描かれているのだろう?傷つく側など、どうでもいいのだろうか?
そう思った途端、急に悲しみがあゆみを襲った。映画を見るのを止め、その代わりにと、部屋の掃除をすることにした。いつもはルンバに任せっぱなしで、一見綺麗に見えるのだが、家具の隙間には少々埃が溜まっている。
掃除をしていると、ソファと壁の間に、クチャクチャっと丸まった白い紙を見つけた。捨てようと思って拾い上げると、何やら文字が印刷されている。
何となく嫌な予感がし、あゆみは考えるよりも先に、中身を見てしまった。それは、銀座にあるフレンチレストランのレシートだった。
12月23日、客数“2”、単価27,000……。
ー客数“2”……?たしかこの日は、男友達“数人”と忘年会と言って、朝まで帰らなかった…。
そこまで考えたところで、これまで経験したことのないくらい、心臓の鼓動がドクンと体を波打った。
「あなたの旦那さん、浮気しています」
この言葉が、あゆみの頭を駆け巡る。
樹は普段、自分から好んで高級フレンチには行かない。男友達と行くわけないし、会食で使うような店でもないのだ。
ーこれ、絶対女性とだわ…。私に嘘をついてまで、イブの前日の土曜日に二人きりで…?
目の前が真っ白になり、手が小さく震えた。心のどこかで、“血の気が引くってこういうことなんだな”、と考えながら、あゆみは呆然と立ちつくした。
▶NEXT:2月1日 木曜更新予定
あゆみは、夫の嘘を暴こうと躍起になるが…。
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この記事へのコメント
交際2年、結婚3年、別れてた期間5年
半分別れてるが笑