2018.01.25
裏切られた妻たち Vol.1
「あゆみ、今日、ヨガは?」
樹にそう聞かれてハッとした。気がつけば、もう8時を過ぎている。
「うわ、もうこんな時間…用意しなきゃ。」
あゆみは毎週土曜日の朝9時から、恵比寿にある、色とりどりのハンモックを使ったエアリアルヨガに通っている。
「じゃあ、行ってくるね。いつもみたいに友達とご飯を食べてくるから、帰りはお昼過ぎるね。」
「了解、俺もちょっと仕事片付けに会社行ってくる。夜ももしかしたら食べて帰るかも。」
「……うん。また連絡してね。」
あゆみと樹のいつもの会話だ。二人にはまだ子供がおらず、基本的に日曜日の夜以外の食事は別々、週末も各々好きに過ごす。何となく当日にお互いの予定を報告し合うが、細かいところまでは気にしない。
しかし今日は樹の一言ひとことが、妙に引っかかっる。“仕事を片付けに会社”なんて、今まで聞き流していたのに。
家を出て恵比寿に向かう中、あゆみの足取りは重かった。中目黒駅まで、いつもと同じ道なのに、まるで違う景色に見える。
あのメールのせいで、昨日までと見える世界がまるで変わり、どんよりとした色味を帯びているようだったのだ。
妻会議の議題:夫の不倫について
ヨガが終わった後、いつものように『ダルマット恵比寿』で友人二人とブランチを取ることにした。
「うわ、このリゾット美味しい……!」
そう言ったのは、食品メーカーで知的財産部に所属する堀口清香である。28歳の清香には商社マンの婚約者がおり、そのふんわりとした可愛い容姿と雰囲気に似合わず、たまにズバッと鋭いツッコミを入れる。
「あら、本当ね。なかなかイケるわね。」
そう言いながらリゾットを口に運んだのは、江崎紀子。彼女は、10歳と7歳の子持ちの専業主婦である。
40歳には見えない白くきめ細かい肌に美しい顔立ち、さらに細長い手足と、見た目は完璧なのだが、思ったことは口から全て出てしまうタイプだ。夫の徹は、不動産投資会社を経営し、広尾に一軒家を持っている。
二人とは年代も職業も、置かれている環境も全く異なるのだが、なぜかウマが合う。しかし今日、あゆみは二人といてもどうも楽しめなかった。
それは、もちろん昨日のメールがずっと頭から離れないからだ。
「どうしたんですか、あゆみさん。今日は何だか元気がないみたい。食事も全然進んでいないですし…。」
清香が心配そうにそう言うと、紀子もいつもの調子で言った。
「そうよ、早く食べないと冷めちゃうわよ。どうしたの、何かあった?」
そう言われたあゆみは、昨日のメールのことを二人に話すことにした。
「えー、何それ!気持ち悪いですね…。何だろう、イタズラ?それとも新手の詐欺とか…?」
「どうかな?でもそれなら何で、会社のメールに来たんだろう?迷惑メールとしてはじかれる可能性もあるのに。」
清香とあゆみがさまざまな推測を繰り広げていると、いつもより少し低い声で、紀子が言った。
「それ、きっと旦那さん、クロね。」
その自信たっぷりな物言いに、あゆみは少し苛立ちを感じ、「何でそう思うんですか?」と聞き返してみた。
「女の勘っていうか、長年の勘かな?私の旦那、浮気常習犯だから。」
あまりにもあっけらかんと答える紀子に、あゆみと清香は目を丸くした。
「え、常習犯って…。紀子さん、平気なんですか?」
あゆみが驚きながら尋ねると、紀子は眉根を歪ませながら、少し口を尖らせた。
「そりゃぁね、初めの1、2回は全然平気じゃなかったわ。生きた心地がしなかったし、何より私の全てを否定された気がしたもの。でも、子供のこともあるし、別れる気がないのなら、知らないふりをするのが一番だって思ったのよ。」
先ほどとは違って、どこか諦めたような、寂しそうな表情をする紀子を見て他人事とは思えず、胸が苦しくなった。
「あゆみさんは、これからどうするんですか?証拠を探したり、旦那さんにそれとなく聞いてみたり…?」
清香にそう聞かれたことで、これまで想像などしなかった“夫の浮気”という問題に直面していることを実感した。しかし今はどうしたいのか、まだ考えられない。
「あゆみちゃん、見ないふりをして忘れるのもアリだと思うよ?もしかしたら、本当にただのイタズラかも知れないし…。
でもきっと、モヤモヤして、本当かどうか確かめたいと思う日が来ると思う。その時はよく考えて。一度証拠を掴んでしまったら、もう知らずに過ごしていた日には戻れないから。」
紀子の珍しく真面目なトーンに、あゆみは“この人もこう見えて、苦しみを乗り越えて来たのだろうな”と思うと同時に、自分にも同じ苦しみが待っているのかと、急に怖くなってきた。
この記事で紹介したお店
ダルマット 恵比寿
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