蝶よ花よと男性からもてはやされ、煌びやかな生活を送る港区女子。
その栄華は当然ながら、長続きしない。
彼女たちもそのことを理解しており、適切なタイミングで次のステージへと巣立ってゆく。
かつて港区女子だったことを露とも思わせぬ顔で、彼女たちは“一般的な”東京生活に溶け込んでいく。
外資系ジュエリー企業の宣伝部に勤める、香(カオル)。かつて港区女子だった彼女も、今は何食わぬ顔で東京生活に溶け込んでいる。
香は如何にして「港区女子の向こう側」へと辿り着いたのだろうか。
木曜日の21時の西麻布交差点で、香のスマートフォンが振動した。
―香、今何してる?中目黒で飲んでるんだけど、来ない?
親友のミカからのLINEに、香はすぐさま返信を打つ。
―誰がいるの?
久しぶりに行った食事会がなかなか盛り上がらず、途中で抜けだした香は帰ろうか悩んでいるところだった。するとミカからすぐに返信が来た。
―投資ファンドの経営者と、外資コンサル勤務の人。
―行く!
盛り上がらなかった食事会後の不完全燃焼な気持ちをすっきりさせたくて、勢い良く返事を送る。すると、ミカからお店のURLが送られてきた。場所は、中目黒の『マルザック 7』。
ミカとは大学からの親友で、いつも一緒に港区界隈で遊んでいる。だからこうした話は、気乗りしなかったら断るし、行きたかったら即レスだ。
こうした勘は、もう嫌というほど研ぎ澄まされている。
「香はいつも華やかで、楽しそうだね」なんて、周りからはやっかみのように言われるが、港区女子たちはいつも楽しそうにしているから、いい誘いがどんどん来る。ただ、それだけのことだ。
六本木通りでタクシーを拾い、中目黒を目指す。港区女子の夜は、まだまだ終わらない。