港区女子の向こう側 Vol.1
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  • 港区女子の向こう側:「同年代の男にモテないでしょ?」発言が許せぬ、港区女子30歳の人生

    すると将生が、こう聞いてきた。

    「香さん、ワイン好きなの?」

    その問いかけに香は「えぇ」と言うと、将生は平然とこう言ってのけた。


    「香さんって、同年代の男にモテないでしょう。ワイン好きな女ってちょっと引いちゃうな」
    「えっ……」

    返す言葉が見つからず、ミカに目で助けを求めたが、話に夢中で気づかないようだった。

    「将生さんは、ワインは飲まれないんですか?」
    「うーん。最近はビールが多いかな」
    「そうなんですね。私、ビールはあまり飲まなくて…」

    香がそう言うと、将生はグラスを持ち上げ、こう続けた。

    「これ、プレモルの『〈香る〉エール』っていうビールなんだけど、フルーティで飲み口がかろやかだから、女性も飲みやすいよ。たまにはビールも飲んでみたら?」
    「……いえ、私は」

    そう断ったものの、将生の形のよい唇ですいすいビールを飲む様子に目を奪われた。


    ―こんなに口が悪くなかったら、いい男なのに…。


    結局その後、ミカの後輩の港区女子・里奈と、さらに男性がもう一人加わり、将生とはあまり話をせず解散した。



    「あーぁ。疲れた……」

    純一の家に着き、ソファにうなだれこんだ。

    「お疲れだね」

    香がソファで横になっていると、純一がワイングラスを片手にやってきた。

    「一杯、飲む?」
    「うん」

    ―ワイン好きの女って、ちょっと引いちゃうな。

    今日の将生の言葉を思い出し、苦々しい気持ちになった。

    お酒を飲み始めた女子大時代から、1杯目は必ずシャンパンだったし、純一と付き合うようになってからは、ほぼ毎日ワインを飲んでいる。周りの港区女子だって、1杯目は皆必ず「泡」を頼み、そこからは白ワインや赤ワインだ。

    純一が注いでくれた赤ワインは、香が好きなピノ・ノワールだった。

    純一が選ぶものに、いつも外れはない。彼の選んだものを受け入れれば、香はいつでも“最強の港区女子”でいられるのだ。

    ワインを飲みながらスマートフォンを見ていると、今日の飲み会のグループLINEが賑やかに飛び交っている。しかしそれとは別に、新着メッセージが2通、届いていた。

    それは、将生からだった。


    会ったときの失礼な口調とはがらりと違う、その丁寧なメッセージをまじまじと見返した。

    ―香さん。

    香の名前は、“カオル”とひらがなでかかれたり“薫”と間違われたりするころが多い。特に食事会で知り合った人に、きちんと“香”と書いてくれる人は滅多にいない。LINEの表示名も「Kaoru」にしているから、しょうがないと言えばしょうがないのだが。


    残りのワインを飲み干し、香は今日の彼の姿を思い出した。


    ▶NEXT:1月31日 水曜日更新予定
    将生に心惹かれる香。しかしそこに意外なライバルが現れる!?

    港区女子の向こう側

    蝶よ花よと男性からもてはやされ、煌びやかな生活を送る港区女子。

    その栄華は当然ながら、長続きしない。

    彼女たちもそのことを理解しており、適切なタイミングで次のステージへと巣立ってゆく。

    かつて港区女子だったことを露とも思わせぬ顔で、彼女たちは“一般的な”東京生活に溶け込んでいく。

    外資系ジュエリー企業の宣伝部に勤める、香(カオル)。かつて港区女子だった彼女も、今は何食わぬ顔で東京生活に溶け込んでいる。

    香は如何にして「港区女子の向こう側」へと辿り着いたのだろうか。

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