蝶よ花よと男性からもてはやされ、煌びやかな生活を送る港区女子。
その栄華は当然ながら、長続きしない。
彼女たちもそのことを理解しており、適切なタイミングで次のステージへと巣立ってゆく。
かつて港区女子だったことを露とも思わせぬ顔で、彼女たちは“一般的な”東京生活に溶け込んでいく。
外資系ジュエリー企業の宣伝部に勤める、香(カオル)。かつて港区女子だった彼女も、今は何食わぬ顔で東京生活に溶け込んでいる。
香は如何にして「港区女子の向こう側」へと辿り着いたのだろうか。
女友達・ミカからの誘いで同い年の将生と出会う。香は、口が悪い彼のことを気になってしまう。
「香さんって、同年代の男にモテないでしょう」
香は出かける準備をしながら、先週出会った同い年の将生の言葉を思い出していた。
今日は先週飲んだメンバーで、投資ファンドの経営者・健人の家に招かれていた。全員揃えば、男性3人、女性3人のホームパーティーだ。肝心の将生は「行けるかどうか、予定を調整する」と言っていた。
香は鏡台の前で、いつもより少し多めに化粧水をパッティングした。昼間のホームパーティーなので、いつもより念入りにスキンケアし、その分メイクは薄くする。
しかし仕上げはいつも通り、真っ赤なリップを指ではたく。顔色が良く見えるよう、普段は使わないピンクのチークを、頬の一番高いところに軽くのせた。
全身鏡の前で、仕上がりを確認する。血色の良く艶やかな肌に、くびれたボディライン。そこにはいつも通り、男なら誰でも振り向くであろう美しい女の姿があった。
―同年代の男にモテないなんて、本当に失礼しちゃうわ…。
ホームパーティーなので香水は止め、ローズの香りのボディクリームをうなじに少しだけ塗り込んだ。
準備を終え、昨日買っておいたワインを持ち、家を出る。
健人は「女の子たちは何も持って来なくていいからね」と言っていたが、そういう訳にもいかない。
直前にミカと里奈に確認したら、里奈は「何か持って行った方がいいですかね?」と返信が来た。里奈はまだ26歳なので、そこまで気が回らなくても、まぁ仕方ないだろう。
結局、香はいつも通り赤ワインを持って行くことにした。これまでの経験上、常温で美味しく飲めるワインは、ホームパーティーの手土産に間違いないのだ。