「おじゃまします。わぁ!素敵なお部屋ですね…!」
赤坂にある健人の部屋は、タワーマンションの32階だった。
「今日は、わざわざありがとう」
健人はにこやかに微笑みながら香を出迎えてくれた。
「これ、つまらないものですけど」
にっこり微笑み、手土産のワインを差し出した。
「何も持ってこなくて良かったのに…。でもさすが香ちゃん、いいワインだね。ありがとう」
笑顔で受け取った男の姿を見て、香は「やっぱりお土産を準備して良かった」と嬉しくなった。
部屋に入り将生の姿を確認したが、まだ来ていないようだった。今日は、来られないのだろうか。
「あ、香さん♡」
その呼びかけに振り返ると声の主は里奈で、キッチンに立っていた。
「…里奈ちゃん。お久しぶりね」
どうやら里奈は手料理を持参して、キッチンで盛り付けしているようだ。
「里奈ちゃん。本当にありがとう。助かるよ」
健人は嬉しそうに里奈を手伝っている。
―ふーん…。
ミカは既に着いており、手持無沙汰のようだった。ミカも里奈を手伝おうとしたらしいが、「座っていてください!」と聞かないらしい。
健人が「先に飲んでてね」と言うので、遠慮なく香が持ってきた赤ワイン を2人で飲むことにした。すると、10分ほど遅れて将生がやってきた。
「どうも」
あんなに丁寧なメッセージをくれても、会うとやはり将生はそっけない。
「用意ができるまで待っているの。将生さんも、どう?」
そう言ってミカが空いたグラスにワインを注ごうとすると、「あ…俺は…」と制止した。すると即座に里奈がキッチンから出てきた。
「将生さんは、これですよね♡」
そう言って、この間も飲んでいた「〈香る〉エール」を差し出した。甲斐甲斐しくグラスにビールを注ぐ里奈に、将生も満更でもなさそうだ。
―ふぅん。まぁ、別にいいけど。
香は残っていたワインをごくりと飲み干した。テーブル上には、里奈が用意したというピンチョスや生ハム、パエリアが美味しそうに並んでいる。
◆
「里奈ちゃん、これ美味しい!」
里奈の作ったパエリアを食べて、健人は絶賛した。
どうやら里奈は、「食べるものはこっちで用意するから」と言っていた健人を気遣って、個別にLINEして色々と聞いていたらしい。
「いいえ、私なんて全然…。でも皆さんこの間ビールに合わせてお料理もたくさん食べていたから」
そう言いながら、里奈は手慣れた様子で料理の写真をパシャパシャと撮り、Instagramにアップしていた。
里奈を絶賛する男性陣を横目に、香とミカは居場所がない。将生が何も言わないのが、せめてもの救いだ。
その香とミカの様子に気づいたのか、健人はそこからは女性3人にまんべんなく話を振っていたが、その気遣いが分かると余計に居心地が悪かった。