港区女子の向こう側 Vol.2
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  • 若い港区女子に、圧倒的に“出し抜かれた”感…。港区女子30歳の「卒業」への道とは

    「おじゃまします。わぁ!素敵なお部屋ですね…!」

    赤坂にある健人の部屋は、タワーマンションの32階だった。

    「今日は、わざわざありがとう」

    健人はにこやかに微笑みながら香を出迎えてくれた。

    「これ、つまらないものですけど」

    にっこり微笑み、手土産のワインを差し出した。

    「何も持ってこなくて良かったのに…。でもさすが香ちゃん、いいワインだね。ありがとう」

    笑顔で受け取った男の姿を見て、香は「やっぱりお土産を準備して良かった」と嬉しくなった。

    部屋に入り将生の姿を確認したが、まだ来ていないようだった。今日は、来られないのだろうか。

    「あ、香さん♡」

    その呼びかけに振り返ると声の主は里奈で、キッチンに立っていた。

    「…里奈ちゃん。お久しぶりね」

    どうやら里奈は手料理を持参して、キッチンで盛り付けしているようだ。

    「里奈ちゃん。本当にありがとう。助かるよ」

    健人は嬉しそうに里奈を手伝っている。


    ―ふーん…。


    ミカは既に着いており、手持無沙汰のようだった。ミカも里奈を手伝おうとしたらしいが、「座っていてください!」と聞かないらしい。

    健人が「先に飲んでてね」と言うので、遠慮なく香が持ってきた赤ワイン を2人で飲むことにした。すると、10分ほど遅れて将生がやってきた。

    「どうも」

    あんなに丁寧なメッセージをくれても、会うとやはり将生はそっけない。

    「用意ができるまで待っているの。将生さんも、どう?」

    そう言ってミカが空いたグラスにワインを注ごうとすると、「あ…俺は…」と制止した。すると即座に里奈がキッチンから出てきた。

    「将生さんは、これですよね♡」


    そう言って、この間も飲んでいた「〈香る〉エール」を差し出した。甲斐甲斐しくグラスにビールを注ぐ里奈に、将生も満更でもなさそうだ。

    ―ふぅん。まぁ、別にいいけど。

    香は残っていたワインをごくりと飲み干した。テーブル上には、里奈が用意したというピンチョスや生ハム、パエリアが美味しそうに並んでいる。



    「里奈ちゃん、これ美味しい!」

    里奈の作ったパエリアを食べて、健人は絶賛した。

    どうやら里奈は、「食べるものはこっちで用意するから」と言っていた健人を気遣って、個別にLINEして色々と聞いていたらしい。

    「いいえ、私なんて全然…。でも皆さんこの間ビールに合わせてお料理もたくさん食べていたから」

    そう言いながら、里奈は手慣れた様子で料理の写真をパシャパシャと撮り、Instagramにアップしていた。

    里奈を絶賛する男性陣を横目に、香とミカは居場所がない。将生が何も言わないのが、せめてもの救いだ。

    その香とミカの様子に気づいたのか、健人はそこからは女性3人にまんべんなく話を振っていたが、その気遣いが分かると余計に居心地が悪かった。

    港区女子の向こう側

    蝶よ花よと男性からもてはやされ、煌びやかな生活を送る港区女子。

    その栄華は当然ながら、長続きしない。

    彼女たちもそのことを理解しており、適切なタイミングで次のステージへと巣立ってゆく。

    かつて港区女子だったことを露とも思わせぬ顔で、彼女たちは“一般的な”東京生活に溶け込んでいく。

    外資系ジュエリー企業の宣伝部に勤める、香(カオル)。かつて港区女子だった彼女も、今は何食わぬ顔で東京生活に溶け込んでいる。

    香は如何にして「港区女子の向こう側」へと辿り着いたのだろうか。

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