はいすぺさんが通る Vol.11

見ないフリをした「1%の迷い」。自分の恋心を見くびった、はいすぺさんの誤算

容姿、学歴、収入。男のスペックは高ければ高いほど良い。

が、同じだけのスペックを女が持ち合わせたとき、果たしてそれは本当に幸せなのだろうか。

東大卒・外銀勤めの楓はいわゆる「ハイスペック女子」。

4年ぶりに再会した憧れの人淡い恋心を抱くも、彼は楓を自身のファンドへ誘ったのだった。

女ではなく、優秀な人材としてしか見られていなかったのかと、女としての自信を失いつつも、キャリアのステップアップのチャンスに楓は心を決める

一方、親友の美里は、実家の耳鼻咽喉科を継いでほしいという両親の意思に逆らい、彼氏の転勤に伴って自身もワシントンで働くことを決断したのだった。


クリスマスツリーの照明が、リビングに流れる重たい沈黙にそぐわず、チカチカと明るく点滅していた。

美里の実家では、毎年本物のモミの木を取り寄せて飾り付ける。

天井まで届く大きなツリーに、トナカイやサンタ、アンティークのオーナメントがたっぷりと煌く。

「・・・本当にごめんなさい。ママ達が今まで私にしてきてくれたこと、本当に感謝してる。期待に応えられなくて、本当にごめんなさい。」

沈黙に耐え切れず、紅茶でも入れようと美里はソファを立った。

美里の母親は大のアンティーク好きで、飾り棚には所狭しと自慢のカップや世界中から集められた小物が並ぶ。

その中に、とりわけ大切そうに飾られた家族写真が目に留まり、強く、冷静に保とうとしていた気持ちが不覚にも揺らいだ。

―私は本当に愛されて育ったんだ。

その晩、美里は久しぶりに実家に帰っていた。

東京での研修医生活を終えた後、実家の医院を継がず、ワシントンで臨床医を目指す決意を話すためだ。

もう心には固く決めていたことだが、いざ両親の前に立つと、2人がどんな顔をするかありありと想像できてしまい、逃げ出したい気持ちで一杯になった。

だが、彼らが実際はどんな顔をしていたのか、見ることはできなかった。

ただ、自分の手元を見つめながら、考えていることを一気に言い切った時、額に痛いほど感じた彼らの視線。

―ああ、戻れないところまで来てしまった。

ほとんど感覚の無い指先で紅茶の缶の蓋を開けながら、美里は思った。

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