LESS~プラトニックな恋人~ Vol.7

LESS〜プラトニックな恋人〜:もう私を解放して…!抱き合えない恋人への、悲痛な叫び

一人ではいられない夜に


ロンシャンのバッグに必要最小限の荷物を詰めて、私は家を飛び出した。

健太と同じ空間にいると、せっかく決別したはずの過去にまた、足元を掬われそうで。

外は夜になるとすっかり冷え込み、家を出た瞬間は火照った顔に心地良くも感じた空気が、歩みを進めるにつれ次第に心もとなくなる。

別れ話は、もちろん初めてじゃない。過去に失恋も経験したし、彼氏がいない時期だってもちろんあった。

しかし、この時の私を襲ったのは、過去のそれとは比べものにならない喪失感だった。

もはや身体の一部のようにして、およそ4年間ずっと側にいた人と離れ離れになる。それはかつてないほどに心細く、身を切るような痛みだった。

居た堪れなくなって家を飛び出したものの、私はいったいこれからどこに行けばいいのか、どこに向かって足を進めればいいのかわからなくなるほどに。

恵比寿駅までふらふらと歩き、呆然と立ち尽くしてしまった私の頭に浮かんだのは、瀬尾さんだった。

最初から頼ろうと思っていたわけでは、断じてない。

ただ、こんな心細い夜を安ホテルでひとり過ごすのはやりきれず、それに彼なら、この状況を打破する答えをくれるに違いない、そんな気がしたのだ。


「美和子さん、どうしました?」

LINEの通話ボタンを押してから数秒で、瀬尾さんの声がした。忙しい人なのに、こういう場面を逃さず電話に出てくれる彼を、頼もしく思わずにいられない。

「私…あの、いま家を出てきたんです。それで、ホテルを取ろうと思うんですけど…」

言いながら、自分でもあまりに図々しく思えて口ごもる。しかし彼は私が遠慮する暇もなく、電話の向こうですべてを理解したようだった。

「そうですか。美和子さん、渋谷に向かってください。僕も仕事が終わり次第そちらに行きますから」

彼は自身の父親が経営するビジネスホテルの名を挙げ、私にそこのロビーで待つように告げた。

「はい…あの、ありがとうございます」

彼の迷いない口調に、私は心が安定していくのを感じた。とにかく私は、渋谷に向かえばいいのだ。行き先を教えてもらいさえすれば、私は一人でも歩ける。

「美和子さん」

通話を切ろうとした私を追いかけるように瀬尾さんに名を呼ばれ、慌てて耳を近づける。

「お礼を言うのは、僕の方だ。美和子さん、ありがとう。それでは、後ほど」

ありがとう、と言った彼の声が、耳元で優しく響く。

その言葉は、水分が枯れるほど泣いた私の身体に、染み入るようだった。


▶NEXT:12月19日 火曜更新予定
ホテルで待ち合わせた瀬尾さんと美和子は、その後…?

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