私たち、騙された? Vol.8

「商社マンである」前提のもと選ばれた男の苦悩と、他人に“理想”を押し付けるのを辞めた女

「大企業に入れば、一生安泰」

昔からそう教えられて育ってきた。

有名大学を卒業し、誰もが知っている大企業に入社。

安定した生活を送り、結婚し子供を育て、定年後は年金と退職金で優雅に暮らす。それが一番の幸せだ、と。

丸の内にある大手総合商社に勤める美貴(26)も、そう信じてきたうちの一人。


シンガポール駐在から帰国した同期の潤は、“the商社マン”のオーラを身につけ、別人のようだった。

潤に刺激を受け、転職エージェントとの面談後少し弱気になっていた美貴は再びやる気を取り戻すが、新たな壁が立ちはだかる…?


「美貴は、いつものタマゴサンド?」

残業中の20時。まだオフィスに残っていた同期の智樹に誘われ、“残業飯”としてサンドイッチの買い出しに行く。

「智樹さ…会社辞めようって思ったことある?」

先週、潤の話を聞いて以来、美貴は同期でありながら毎日浮かない顔をしている智樹のことが気になっていた。

―智樹は、会社に抑えつけられて覇気がない自分に、気づいているのだろうか。

そんなことを思い、美貴は智樹に話を振った。

「俺さ…この間彼女に聞いたんだよ。」

智樹は3秒くらい考えるように黙り込んだ後、神妙な顔で話し出した。思ったよりも重い空気になり、美貴は動揺して手に持っていたタマゴサンドを落としそうになる。

「聞いたって…何を?」

「もしも俺が商社マンじゃなかったら俺と付き合ってたか、って。」

智樹には付き合って半年になる日系航空会社のCAの彼女がいる。

誕生日にはカルティエのネックレスを当たり前のようにリクエストしたり、智樹の麻布十番の家に居座ったりしている様子を聞き、美貴は「何でこんな子と」と思うこともあったが、智樹のように優しい男性にはきっとわがままなくらいの女性がちょうど良いのだろうと自分を納得させていた。

「それで、彼女はなんて…?」

「勿論、商社マンじゃなくても付き合ってるよ、って。」

智樹は一瞬ためらいを見せながらも、続けた。

「それで…じゃあ、俺商社辞めてもいい?って聞いた。」

美貴は嫌な予感がした。智樹の彼女の答えは恐ろしいくらい予測できる。

「そしたら、彼女黙っちゃって。つまり、NOってことな。俺核心ついちゃったの、笑えるよな。」

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