2011.10.21
次世代を牽引する若手実力派 Vol.1RISTORANTE YAGI
修業先で惚れ込み作り続けた信念の皿、堂々の復活
今年も残すところあとわずか。色々あった2011年、それでも魅力的な店はたくさん生まれ、東京を活気付けてくれた……と、すっかり年末的感慨に浸っていたところに、吉報が舞い込む。八木康介シェフが帰ってきたのだ。ご存知、中目黒の『ラ・ルーナ・ロッサ』を一躍人気店にし、銀座『ブルガリイル・リストランテ』で料理長を務めたその人である。満を持して開いた店で何を見せてくれるのか。期待を胸に、さあ、店内へ。
重厚な扉の奥に広がるのは、清々しく開放的なダイニング。地階ながら大きな窓があり、外に並ぶ木々が灯りに照らされて店内を彩る。牡蠣色のリネンのクロスは、黒が基調の空間の柔らかなアクセントに。洗練と温もりが心地よく共存している。メニューを見れば、記されているのは食材名のみ。食べ手の想像力を刺激しながら、「素材ありき」という料理人の哲学を示す仕掛けにも心が躍る。リストランテは、こうでなくっちゃ。
料理は7~8皿のコースで供されるが、とりわけ八木シェフが力を入れるのが手打ちのパスタ。フィレンツェの『エノテカ・ピンキオーリ』でプリモを担当していただけに、並々ならぬ思い入れがあるのだ。そしてここに『ラ・ルーナ・ロッサ』時代のスペシャリテが復活する。「鳩と栗、茸のガルガネッリ」。10年前、同店のシェフに就任した直後から作り始めた品だ。
「当時は“鳩のパスタって何?”という時代。ガルガネッリを知らない人も多かった。プリフィクスのメニューに並べても一向に注文されず、一時はロングパスタに替えたことも。それでも食べてもらいたかった、僕が惚れこんだイタリアの味です」
濃厚な鳩と栗のラグーがしっかりと絡まったガルガネッリ。その生地にも栗の粉が練り込んであり、ローストした鳩の胸肉が添えてある。北イタリアらしく、そしてリストランテの皿ならではの風格が漂っている。
飲食店のカジュアル化が進む今、経験豊かな実力派のシェフが“日常使い”の店を開く例が増えている。そんな中、堂々たる凱旋である。前のめりな食べ手として、その英断を祝福したい気持ちでいっぱいだ。
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