SPECIAL TALK Vol.36

~こんなに面白い時代に生きているのだから、新しいチャレンジはやめられない~

自分なりのやり方で、チャンスを掴み続ける

小林:そうして2年ほど経った頃、突然本社から「本社で販売話法を教えてくれ」と声がかかりました。本社では、私がトークで化粧品を売っていると思っていたようで(笑)。

金丸:とんだ勘違いですね。メイクの腕で売っていたのに。

小林:そう。だから話法なんて持ってない(笑)。どうしようと思って、「ひたすらメイクしてたんです」って正直に話したら、試しに美容部長の顔をメイクしてみろ、と。それが認められて、販売話法ではなくメイクの先生になりました。

金丸:それだけ小林先生の売り方は斬新だったんですか?

小林:私より前の方たちは、「いったん手を握ったら離すな」とか、「片方の眉毛しか描くな」とか教えていましたから。

金丸:買ってくれたら「もう片方の眉も描くよ」ってことですか(笑)。先生は全く違うやり方で、自分の夢に近づいていったんですね。

小林:とはいえ演劇の世界はなかなか遠くて。だから現場を経験したいと思って、演劇のメイクをボランティアでやりました。その代わり、会社の名前を出してくださいとお願いして。夢を追いかけつつも、会社のほうがどんどん発展していったのは、面白かったですね。

金丸:コーセーには何年在籍されたのですか?

小林:33年です。最後の6年は役員もやりました。

金丸:小林先生が働いていた頃は、化粧品の世界といえども男性社会ですよね。反発はありませんでしたか?

小林:そこは知恵を使いました。会議のときは茶色やグレーの服を着て、口紅もつけない。派手にしていくと、対等に見てもらえないので。男と女の会話になってしまうと、そこから真面目な議論に入れなくなりますから。

金丸:男性のほうが女性を〝女の子〞みたいに扱ってしまいますからね。そう見ている〝女の子〞が何か意見すると、男性は「えっ、なんだこの子は。生意気だな」と反感を覚えてしまう。

小林:それで失敗している人を、私はたくさん見てきました。だから、そうならないようにしようと。結果、同僚の男性たちからは「照子さんと出張に行くと、女房がヤキモチを焼かない」と言われていましたよ(笑)。

金丸:それはすごい。男性、女性という枠ではなく、同志として評価されていたんですね。

小林:だから今の女性たちには、かわいい巻き髪はアフターファイブまで封印しなさいと言いたいです。男性と仕事するなら、男と女の会話になる前に、仕事の話ができるようにしないと不利ですよ、と。

金丸:しかし、対等の関係を築けたとはいえ、苦労はあったのではないですか?

小林:もちろんありました。たとえば新しい製品を世に出すには、いくつもの会議を乗り越えて、トップの決済を得るまで粘らなければいけません。それまでにたくさんの難関があるわけだけど、商品化すれば喜んでくれる女性がたくさんいると思うと、それが原動力になりました。そうして、何度も何度も繰り返していくうちに成功も増えていって。挑戦さえすれば、何でも実現できるんだと実感するようになりました。ただ女性って、1回成功しただけだと、まぐれだと思われてしまうんですよね。

金丸:男性は素直に受け入れませんから(笑)。

小林:1回目はまぐれ。2回目は「みんなの協力があったから」でしょう。3回目でようやく「あの人は実力があるんだ」と認めてもらえます。逆に言えば、3回成功すれば、あとはこっちのものなんですけどね(笑)。これも若い女性たちにいつも伝えています。

金丸:こういうことは、小林先生のように、挑戦しないとわからないことですね。

小林:上司やトップとの間に壁があると思い込んでいる人も、結構多いですよね。私にもなかったわけじゃないけれども、でも議論していくうちに、実は「壁」じゃなくて、「人」だということがわかってくる。壁とはわかり合えないけど、人とならわかり合えるじゃない?

金丸:それはすごくわかります。「見えない壁がある」とみんなは言うけど、そんなことはない。だって、「自分のアイデアを邪魔してるのは、あいつだ」って本当はわかってるじゃないですか(笑)。

小林:そうなんです。だから「上司が何を考えてるのかわからない」って言う人には、「上司と話したことある?」と聞きます。上司は上司で「若い者はダメだ」と思い込んでいるだけかもしれない。とことん話してみれば、お互いの壁を乗り越えるきっかけになると思うんです。

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