はいすぺさんが通る Vol.1

はいすぺさんが通る:にゃんにゃんOLを鼻で笑う24歳外銀女子が、絶対口には出さない本音

頑張り続けてきただけに、負けられない


その日の夜。

楓は西麻布のフレンチ、『コントワール ミサゴ』のカウンターでシャンパンのグラスを傾けていた。

荒れに荒れたプロジェクトがようやく終息し、久しぶりに大学時代の同級生・美里と食事でも行こうとなったのだ。

美里はこの4月から、港区の総合病院で研修医生活をスタートしたばかりだ。

楓と同じくらい多忙な美里には、病院からも徒歩数分のこのレストランはうってつけだろう。

「待たせちゃってごめんー!」

待ち合わせの時間から10分ほど遅れ、美里が駆け込んできた。

「先に飲んでたから全然平気、お疲れ様」

久しぶりの再会にはしゃぎながら、アラカルトからメニューを選ぶ。

楓の方もプロジェクト続きだったが、美里の方も配属された科が忙しすぎて中々予定が合わず、二人で会うのは4か月ぶりだ。

「で、どう、研修医生活は慣れた?」

「もう、ほんっとうに、大変。メンタルも体力もしんどいよーーー」

「だろうねえ。当直に週末出勤、聞いてはいるけど女子には結構体力的にしんどいよね」

男女平等がいくら叫ばれたって、病院も外銀も男が中心で、男の体力とガッツをベースに回っている。

自ら選んだはずの仕事でも、3日連続徹夜に近かった後など、荒れ果てた肌や血走った眼に化粧室の鏡で気づいたときに、本当にこれが自分のやりたかったことなんだろうか、と自問してしまうことは多々あった。

「女子力ある人は女子力で生きてけるんだから、良いよねえ。。。」

今朝先輩に言われたことが蘇る。

確かに、本当に自分に「女子力」があったら、もっと違う人生だったのかもしれない。

デザートのプリンをつつきながら、思わずこぼした。


楓には、苦手とするものがいくつかある。

接待ゴルフ、美的センスを求められるもの全般、当たり障りのない世間話、等々。

が、中でもとりわけ苦手なのは、いわゆる、「にゃんにゃんOL」や「港区女子」だった。

彼女達の「愛されるのが仕事です♡」とでも言わんばかりの生き方を見るにつけ、なぜかいつも苦々しい気持ちになってしまう。


幸せは、努力の先にあるもの。自分の人生の責任は、自分にある。


幼いころからそのような価値観を叩き込まれ、努力し続けてきた楓には、彼女たちの生き方はとても楽そうに見えた。

当然のように人に高いバッグを買ってもらったり、贅沢な食事を奢ってもらったり、彼女たちは不思議なほど軽やかに人生を歩んでいた。

頑張ってきた自分の方が、彼女達より幸せになるはずなんだ。

人に頼らなくたって、港区のど真ん中に住めるし、シャネルのマトラッセやルブタンも買えるし、話題のレストランだって自腹で余裕しゃくしゃくだ。

私は「彼女たち」とは違う。


ーでも本当に、この生き方が自分の幸せなのだろうか……?


その時、背後でドアのベルが開く音がした。

「すみません、ドリンクだけでもいいですか?」

ベルの音につられるように、なんとなく楓が振り返ると、そこに立っていたのは2年前に別れた元彼・敦だった。

そして彼の隣には、小柄でふんわりとした優しそうな雰囲気の女性が、ぴったりと寄り添っていた。

楓が一番毛嫌いしている女の、象徴のような女を連れて。

▶NEXT:10月11日 水曜更新予定
2年ぶりに再会した元彼。彼から見た楓はどんな女性だったのか・・・?

※本記事に掲載されている価格は、原則として消費税抜きの表示であり、記事配信時点でのものです。

この記事へのコメント

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No Name
このタイトル、いいよいいよー。期待大です!
2017/10/04 05:1965返信4件
No Name
めずらしく主人公の経歴・考えに共感できる。ただ、上司の発言は人によるかな。必ずしも全員がそうではないと思う。それに綺麗なロングヘアで化粧完璧な女性バンカーは憧れ。
2017/10/04 05:5354
いでよ!
コメ欄徘徊中の、噂の外銀女子さん、出番です!
2017/10/04 08:5630返信2件
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