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私たち、騙された? Vol.1

私たち、騙された?:「20年後には“倍”になる給料」を信じて働く、エリート商社OLの悲劇


「美貴、久しぶり。ずいぶん、大人っぽくなったね」

ゆるくウェーブのかかったロングヘアをなびかせながら、エミリは5分ほど遅れて『ラス』に到着した。


父親が貿易会社を営むエミリもかなりのお嬢様だが、美貴にはない、自由で伸びやかな雰囲気がある。

我が道を行くエミリと、優等生ロードを歩んできた美貴は正反対のタイプ。時々、自由気ままなエミリが羨ましく思うこともある。

しかしだからといって、エミリと同じ道を歩みたいかと言われれば、それはまた別だ。“ベンチャー企業勤務”という不安定な人生を歩みたいとは、到底思えない。

「仕事、どう?」

近況報告を一通りしたあと、エミリが聞いてきた。

「うん、だいぶ慣れてきたわ。最近は定時に上がって、ヨガに行ってる」
「ヨガ?」
「そう。あとはそろそろ婚活しなきゃって思ってる」

“定時上がりでヨガ”、そして“婚活”という言葉に、エミリは目をぱちくりさせている。

「婚活ねぇ。優秀だった美貴が、もったいない気もするけど。仕事、楽しくないの?」

仕事が楽しいかなんて、美貴にとってはあまり重要ではない。大切なのは、安定とブランド力だ。

「仕事自体が楽しいかは、分からないけど・・・。お給料は高くないけど安定してるし、20年後には倍になるらしいから、今はある程度我慢、かな」


―20年後には今の倍の給料。


それは、会社にしぶとく生き残っている40代の“お姉さま”たちが、口々に言っていることだ。

しかし、エミリがその答えに納得していないのは一目瞭然だ。

「20年後のために、今我慢してるの?大企業神話って根強いけど、東芝とか今大変じゃない」

そして、とどめをさすようにこう言った。

「今のご時世、年功序列でお給料が上がる保証はないんじゃない?将来、会社が存在する保証も」

エミリのその言葉に、今まで見ないようにしてきた“現実”を突きつけられた気がした。

大企業に入れば、一生安泰。幼いころから漠然と信じていた価値観に、うっすらと雲がかかる。


―今の会社での安定した未来がなかったら、私の人生って・・・?


美貴はエミリの言葉にどう返そうか、考え込んでしまった。


▶NEXT:10月6日 金曜日更新予定
崩壊する“大企業”神話。明かされる才女達の大企業レールの始まり。

※本記事に掲載されている価格は、原則として消費税抜きの表示であり、記事配信時点でのものです。



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この記事へのコメント

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No Name
美貴みたいな人のことを「にゃんにゃんOL」と言うのでは?それなのに父が商社マン、母が専業主婦だと「良家のお嬢様」となり「知性と楚々としたオーラを醸している」となるんですね...(笑)
大企業=一生安泰という神話が崩れ出したのも最近の話ではないと思いますが。
一体いつの時代のお話なのでしょう。
2017/09/29 13:2139Comment Icon1
No Name
物語の趣旨から外れるけど、付き合ってる人いるのに婚活しなきゃって彼氏が可哀想。。東カレの主人公は皆んな打算的で応援のしがいがないわ。
2017/09/29 17:5236
大学教育に関わってるものです
私は、むしろズレてるのは皆さんの方だと思います。
皆さん、21歳、22歳の大学卒業生が、どれだけ安定志向で、有名企業、大企業にはいりたがるか、わかっていらっしゃられない。

昔より悪化してますよ?

既に社会人生活を長く送られてる皆さんの言っていることは、正論ですが実態と離れてる。
一流大学の若者の就職活動の現場は、地獄の安定志向、護送船団ムードです。

私は、教育に携わるものとして、危機感を感じ
ている中、この連載が始まったのは、実にリアルで期待をしました。

東カレで、東大の松尾先生と対談した記事を拝見しましたが、松尾先生も警鐘を鳴らされていたと記憶しています。

長文失礼しましたが、改めて、いまの若者は、安定志向、リスク回避型がマジョリティーで、
そんなのいつの時代?と言っている人は、現実が見えてないと思います。
2017/09/29 22:0734Comment Icon18
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私たち、騙された?

「大企業に入れば、一生安泰」

昔からそう教えられて育ってきた。

有名大学を卒業し、誰もが知っている大企業に入社。

安定した生活を送り、結婚し子供を育て、定年後は年金と退職金で優雅に暮らす。それが一番の幸せだ、と。

外苑前にある大手総合商社に勤める美貴(26)も大企業神話を信じてやまない1人。

大企業で優秀な同僚に囲まれ、華やかな生活を送る日々は幸せ、か?それとも…?

目まぐるしく変わりゆく現代社会で“大企業”病という現実に直面した美貴の成長物語。

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